triste

 優しきものを労わる兎




「明智さん!」
「はい?」
でも、草むらから飛び出した蛇腹状の刃ははっきり見えた。それの狙いは、間違いなく明智さんだ。
私はさっきまで怖いと思っていたにも関わらず、彼に飛び込んで一緒に転がる。

「ちょ、いきなりなんです…」
「伏せて!早く!じゃないとずっと紳士じゃないって呼びます!!」
もう自分何言っているのか分からないけど、とにかく明智さんの前に出て針を投げた。
運よく押し返すことが出来た。一度引っ込んで行ったけどまた来るに違いない。

なにより向こうの姿が見えないから、反撃しようにもできなかった。


私は能力を使うことを決めた。
今の私の主、綱吉くんとその家庭教師アルコバレーノの声が脳裏に蘇る。


『和泉さん、その能力を使うのはやめてほしいんだ。特に、治癒能力の方。』
『ど、どうして…私は守護者として、お役に…立てませんでしたか……?』
『違うよ!そうじゃない!!えーと……』
『言い方が悪いんだよバカツナが。一流のマフィアになるのに女を泣かすな。』
『いっでー!!』
『しかしその件は俺も賛成だ。』
『え、えっと…和泉さん、その能力は自分の体に反動の来る能力なんでしょ?治癒能力の方を使ったあと、寝込んだことあるってヒバリさんが言ってたよ。』
『……っ、委員長さん…言わないでって言ったのに……』
『生まれ持った方はそうでなくても移植された方がまずいな。』
『でも、私…綱吉くんの役に立ちたい……!そのためにこの力があるって今は思ってます。だから……』

『うん、使うなっては言わない。でもできるだけ使わないようにしてほしいんだ。俺は友達が苦しむの、見たくないから…』



だから、和泉さんがどうしても譲れない時まで取っておいてほしいんだ。


(……ごめんなさい綱吉くん。)
陽だまりのような彼の声。優しくあたたかな魅力に溢れた彼に心の中で謝罪をする。
この世界に来てからあなたに『使わないで』って言われた治癒能力はたくさん使ってしまったから、もうひとつはなるべく使わないようにしようと思ったんです。
…特に、あなたが嫌う戦闘では。

でも私はわがままなんです。欲張りなんです。
私が手を伸ばして助かるひとがいるのなら、私は躊躇わずに手を伸ばすひとになりたい。

だから、ごめんなさい綱吉くん。

(私はここで……力を、使います。)
目を開けた私は手のひらに氷の弾丸を作る。それを草むらに向かって放った。
明智さんを狙ってきた人を動かすことには成功したけど、それでも向こうが有利なのには変わりない。

どうしようか。
そう考えていると地面から起き上がった明智さんが鎌を持ってこちらに来た。

 

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