leprotto

■ 伸べる手


「そんな馬鹿な!」

獄寺が声を上げる。彼の目線の先には、雪の守護者と名乗った少女――雪宮和泉がいた。

「ざけんな!信用できるかよ!!お前は骸の部下だろうが!!」
「まーまー。獄寺、落ち着こうぜ?」
「うるせぇ野球馬鹿!!お前は以前会った時のこいつの気配を忘れたのかよ!」

悲しそうに微笑む彼女は、一同の反応を予測していたのかただただ静かに獄寺の声を聞いている。
そんな獄寺を宥めている山本の声すら、彼女は分かりきっていたかのように俯いて手の中にある指輪を包み込んだ。


「待って…獄寺くん、」
「十代目?」
自然と声が出る。
板の上に乗っている、漫画のヒロインのような彼女は目を見開いて自身を見た。
獄寺が訝しげに眉を顰める。

「この人は、大丈夫。」

そう言うとオレンジ色の大きい瞳を瞬かせて、彼女は頬を染めた。
そんな表情もとても絵になっていて、端正な顔つきの男性と並べばどこかのドラマのワンシーンのように見えるだろう。
その相手が平凡な自分なのが惜しいのだが。

黒曜ランドで出会った時、この少女は悲しい顔をしていた。
雲雀の安否を気にする自分に、彼の状況を話した。
草むらの陰にいた探し人、フゥ太を守ろうとした。
ごめんなさい、と懺悔した。

彼女は進んで悪事を働き、世に復讐しようとしているようには見えなかった。
骸に従っていたのも、骸を慕っていて力になりたかったからだ。

聞けば彼女は復讐心なんてなくて、優しい故に骸の復讐心に心を痛めていたという。
動物に擬態できる少年がそうぼやいた時、骸も彼女も気を失っていた。

これだけ彼らに大切にされているのだ、彼女は優しい人物なのは簡単に想像できる。


だから、信じる。
信じていれば、きっと彼女は答えてくれるはずだ。
運命を信じているわけではないが、綱吉はそう直感したのだ。


「……そろそろよろしいでしょうか。」
チェルベッロは視線を向けている。向こうの守護者は既に戦闘態勢に入り、武器を構えていた。
チェルベッロたちは手を上げ、顔の中で唯一見える口を開く。



「では雪の守護者、スノウVS雪宮和泉…勝負開始!」

その声と共に、両者は板から消える。
瞬きをした瞬間には、既に空中で、目で追うことすら許されない神速の攻防が繰り広げられていた。

いや“空中で”ではない。
数枚の足場が変化を起こしていた。一つは凍りつき、一つは電流が流れ、一つはゆっくりと沈み始め、一つは高熱を発しているのかプールの水が蒸発している。


故に両者は、自身の動体視力が追い付かないくらいの速さで動き、戦っているのだ。
一体どちらが優勢なのか、時折見える煌めきは何なのかさえ自身には見えない。


人知を超え可視することを許さないその速さは、まさに神速。
恐ろしいほどの速さと寒気のするような殺気は、あの悲しげな少女から放たれているのか、それとも無感情な青年から放たれているのか。



ぱぁん、という破裂音が静寂を支配し、双方は薄い板の上に着地した。

 


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