leprotto
■ 崩れる背中
「わぁぁぁ、どうしよう!!」
犬、千種と共に髑髏の付き添いで並盛中に来た和泉は、目の前のボンゴレ一行を見た。
今日は霧の守護者戦の翌日。
次なる守護者の対戦だった。しかしボンゴレ――沢田綱吉側の守護者は来ていないらしい。
あちらには既に黒いコートを纏った、背の高い青年が待っている。
彼は端正な表情を少しも崩すことなく、じっとこちらを見つめていた。
和泉と目が合う。彼は驚いたような感情を漏らすが、すぐに元の無表情に戻って目を細めた。
「そんなに気になるのか?守護者が誰だろうと、いいじゃねぇか。」
「……だって、」
慌てふためいていた沢田綱吉に、アルコバレーノが言う。勢いよく振り向いた沢田は、目を見開いて眉を寄せた。
「危険なことに、巻き込んじゃってるんだよ。」
「そうだな。」
「それなのに、向こうは戦ってくれるのに、俺はその人が誰なのかわからなかったら…その人を心配することも出来ないよ。」
「骸みてーなやつでもか?」
アルコバレーノの声に、沢田綱吉はたじろぐ。しかし、首を振ってしっかりとアルコバレーノを見つめた。
「……そうだよ。骸の時、確かに怖かった。でも、クロームも骸も…俺の体を乗っ取るって理由だけでここに来てくれたんじゃないと思うから。」
そう言う彼の目はまっすぐで、和泉はその目を直視出来なかった。
落ち葉のように柔らかな茶色が、優しい光を宿す。
「…いいの?」
横にいた千種がちらりと和泉を見た。犬と髑髏も焦ったような雰囲気でこちらを窺っている。
確かにこのままでは沢田綱吉たちは不戦敗となってしまうだろう。
「信じるのか、あいつらを。クロームはともかく、あいつらはお前が最も嫌うことをして来たやつらだぞ。」
「……でもここまで来てくれた。理由はどうあれ、こんな危険なところに来てくれたんだ。」
しかしそれに返答する暇はない。和泉は沢田綱吉の声を聞き漏らさないように、神経を耳だけに集中していた。
「俺は、父さんが選んだ……ううん、俺の守護者のみんなを信じたい。」
「ツナ……」
山本武が沢田綱吉を呼んだ。だが沢田綱吉は続ける。
不安そうな顔で、しかし強い意志を持った目だけは輝いていた。
「俺は…獄寺君みたいに勉強出来ないし、山本みたいに運動も出来ない。お兄さんみたいに熱くなれるものなんてなかったし、ヒバリさんみたいに強くもない。骸たちみたいに辛い過去だってない。」
「十代目……」
「だから、俺は何があっても仲間を信じる。それだけは誰にも負けない。……だから、」
獄寺隼人が呼んでも、沢田綱吉は続ける。
ぎゅっと結ばれた唇は、震えていた。彼は小さく息をついて、ぐいっと顔を上げる。
「だから俺は信じたい、雪の守護者のこと。」
きっと、来てくれるって。
その頼りない、細い声は確かに和泉の心臓を鷲掴みした。
深く息を吐き出し、目を閉じる。目を開けた和泉の口元は、自然と綻んだのだった。
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