leprotto

■ 崩れる背中


「向こうの守護者は逃げ出したか。」
「じゃこっちの不戦勝じゃね?うししっ!」

ヴァリアー側から聞こえた声に反応し、和泉はそちらを見る。
雷の守護者と嵐の守護者が笑っていた。


「ん?……ししっ!」

嵐の守護者と目が合う。
さらりと糸のような金髪が揺れ、頭上の冠が銀色に輝いた。
それを見て唯一言葉を発していない青年はこちらを向く。


「スノウ、どーした?」
「………。」
嵐の守護者は変わらない笑みで青年を呼んだ。
呼ばれた青年はそれに反応せず、じっと和泉を見つめている。

雷の守護者とも目が合った。心なしか彼の頬は赤みがさしていて、顔もにやけているような気がする。
そういえば彼は髑髏を見て妖艶だと漏らしていたので、彼女を見ていたのだろう。



「スノウ……?」

嵐の守護者が呼んだ名前がヴァリアーの雪の守護者を差しているのがわかり、和泉は彼を見る。
漆黒のコートに包まれた長身はすらりと細く、男性にしては華奢だ。


鴉が翼を濡らしたかのような黒髪は、涼しげな音を立てて揺れる。
赤色の双眸は何も映さず、ただただ無しかそこにはない。

整った顔に張り付いてるのは無の仮面。
何の感情も露わにすることなく、彼はそこに存在していた。




「では、雪の守護者の対戦を行いたいと思います。」
「場所を移動します。こちらへ。」

チェルベッロが移動を促す。
その場の全員が彼女たちの後をついていく。行き着いた先は屋外の施設のようで、沢田綱吉は大きい目を更に見開いた。


「ウソでしょ!?ここって……」
「皆様、こちらにどうぞ。」

そこの鍵を開けたチェルベッロは、手で中に入るように示す。
それに従い、一行はその入り口をくぐった。



「な……ここは…」
「プールではないか!!」
「泳ぐってことスかね。」

目を見開いた獄寺隼人に続いて、スポーツカットの少年が目を輝かす。山本武が苦笑していた。
彼にしては丁寧な言葉づかいから察するに、あの少年は先輩なのだろう。

そう、辿り着いた先にあったのはなんと夏場に体育で使うプールだったのだ。

しかし今プールは巨大な水槽のような透明な板で覆われており、更には水上には板のようなものが浮いている。
水深はかなり深い作りに変えられており、覗き込んでも底を窺うことは出来ない。

とてもじゃないが、授業で水泳をするようなプールではなくなっていた。


「ん?なんだこれ……どっかで見たことある…。」
「発泡スチロール…の板?」
「おお!」

沢田綱吉が水面に浮かぶ板のようなものを見つけてプールの縁にしゃがみ込む。後ろから板を覗き込んだ獄寺隼人が板の成分を口にした。
それを聞いた彼らの先輩(スポーツカットの少年のことだ)が明るい表情で声を上げる。

「テレビとかで、これの上を走っていく極限な競技があったな!」
「あれ面白そーなのなー。」
「ああ、それだ!」

彼の声に、山本武が笑った。
そして沢田綱吉も思い当ったのか、目を見張る。

その様子を見て犬が視線を逸らした。


「犬…あの方、知ってるんですか?」
「あいつ笹川了平だびょん。」
「?」
「和泉、」
聞き覚えのない名前に首を傾げると、千種に肩を叩かれる。振り返ると耳を貸してほしい、と言われたので頷くと千種は和泉の身長に合わせて腰を折った。

 

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