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「なんでそんな離れてんだよ」
「…気にしないで下さい」
そりゃ、さっきの今ですっごい気まずいんだけど…
そんな名前は白金の3m程後ろを歩いており、傍から見たら赤の他人のようだ。
「なぁ…おまえさ」
不意に白金が歩みをとめ、こちらを振り返る。
くそう、顔が良いな。
「何ですか」
突然の事に不思議に思いつつも先のセクハラ紛いの件もあり、警戒しつつ名前も足を止める。
あ、まって、なんか鼻がムズムズする。
「…」
白金はどこか遠くを見ているような眼差しで名前を見つめて黙り込んだ。
…なぜそんな目で見られてるのかわからないんだけども。
その場に沈黙が流れ、風の音しか聞こえなくなる。
綺麗な瞳だな。キラッキラしてて本当に王子様みたいだ。
そして白金が口を開こうとしたその時──────────あ、やば、出る。
「ふえっくしゅん!」
「…」
シリアスな雰囲気に必死に我慢していたクシャミが炸裂した。もっと可愛らしいクシャミなら良かったのに…。
へくちゅっとかちゅんっとか。
萌え袖してる女の子がやるタイプの。
白金は突如静寂を引き裂いたその音にハッとしたように我に返ると、はぁ…と溜息をつき、着ていた上着を名前に掛けた。
空気読めない鼻で申し訳ない。
「凄いクシャミだな、風邪でもひいたか?────今日は色々あったからゆっくり休めよ」
「あ、ありがとう…ございます」
恥ずかしさを隠すように上着の裾に顔を寄せると、爽やかな香りが鼻孔をくすぐった。
これ、白金の匂い…?
幸か不幸か、思いもがけぬ白金の振る舞いに、変に意識してしまう。
顔も良くてお金持ちで優しくて…口の悪ささえ直せば完璧なのに。
直さなくても推せるけど。
「なんだよ、人の顔そんなに見つめて」
「……別に」
きっとモテるんだろうな、なんて考えながら白金を見上げると、白金は目が合うなり私の頬へと手を伸ばし、耳元に顔を寄せた。
「顔…真っ赤だぞ。」
ニッと悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべて離れていく白金を目で追う名前は暫く固まっていたが、我に返ると悔しさか恥ずかしさかよくわからない感情で埋め尽くされた。
やっぱりこいつ…確信犯だ!!
「〜ッ!
私っもうここで大丈夫だから!!」
「あ、おい」
名前は白金の呼び止める声にも耳を向けず、おそらく頭に生えてるであろう猫耳を隠すように走り去った。
そういえば白金、何を言おうとしてたんだろう。
(危険人物認定)
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