「そりゃお前、言った方が鳩原のためだろ」
「うーん、そりゃ分かってるけどさぁ...」

 お好み焼きがジュウジュウと美味しそうな音を立てて焼ける音に、もくもくと白い煙が立ち込める。煙越しに見えるリーゼントヘアーのその人物・当真勇の言葉に私はがくりと肩を落とした。この当真こそが去年の春休みの課題終わらない騒動の原因1であり、今回の勉強会の発端その1である。その2は国近ちゃん。

 今は、場所は変わってお好み焼きかげうら。私たちと同い年でボーダー隊員である影浦の実家である。勉強会は今日のところはひとまずお開きになった。未来ちゃんと犬飼は、この後二宮隊で作戦会議があるからとこの場にはいない。あと何人かは防衛任務があったから来てないけど。

「だよねぇ....でもどう言えば」
「俺に言われても。今二宮隊3位だし、早いとこ言っとけよ。遠征十分狙えんだから」

 そう、だよねえ。そんな言葉しか吐けない。

「お前は何でも気にしすぎなんだよ」
「えー、そうかなぁ?」
「...鳩原は、自分自身の問題ってこと一番分かってるんじゃないのか?」

 隣に座る荒船はそう言うけど、でもやっぱり納得できなくて、モヤモヤしてしまう。他人事には思えないし、友達、だし。返事もつい途切れ途切れになってしまう。

「あー、もうこの話はやめようぜ」

 当真が口を挟んだ。

「ひとまずその話は置いといて、今は宿題終わったお祝いしよーや」

当真はヘラを持つと、「いただきます」とお好み焼きに手をつけた。「せっかくのお好み焼きがまずくなっちまう」

「それもそうだな、いただきます」
「...いただきます」

 私も、それに倣って食べ始めることにした。口の中にキャベツのシャキシャキとした食感と、もちもちした麺の味が広がる。うーん、やっぱり、

「美味しいなぁ」
「当たり前だろ」

 片手にお盆を持った影浦が近づいてきた。店のロゴが入ったエプロンを付けており、どうやらお店の手伝い中みたいだ。お盆の上には冷奴が一つ乗っている。「荒船、これ親父から」

「...親父さん、俺が前好きって言ったの覚えててくれたんだな」
「荒船は常連でよくお世話になってからサービスだってよ」

「えー、それなら俺も常連さんでしょ」
「お前にはねえよ」

 軽口をかけ合いながら、影浦も当真の隣に座った。....店の手伝いはいいのか。そんな私の感情を受け取ったのか、影浦は「ちょっとぐらい休んだって問題ねえよ」と気にもしていない様子だった。

「カゲー、お前鳩原についてユズルからなんか聞いてねえの?」
「何だよいきなり」
「深見が、鳩原について悩んでるみたいだからよ」
「うっ...ちょっと、当真〜?」

 自分から未来ちゃんの話題を変えたくせに、影浦に吹っかけるのはいかがなものか。確かに、影浦の隊のスナイパーの絵馬君は未来ちゃんの弟子だし、仲良しだけどさぁ。

「...別に、特に何も聞いてねえよ。そもそもそういうの話すタイプじゃねえし」

 影浦は訝しげな表情を浮かべてそう答えた。「大体、そーゆうのは当真の方が詳しいだろ」

「同じスナイパーなんだしよ」
「いやぁー、俺、ユズルから嫌われてるっぽいしあんま知らないんだよね」

「ヘッ」影浦は鼻で笑った。「ザマァ」

「うわぁー、コイツ俺の子は渡さないみたいな表情してんだけど。隊長マウント取ってくるんだけど」
「隊員のことを大事に思ってるってことだな」
「なっ、そんなんじゃねーし!ぶっ飛ばすぞ!」
「照れてる照れてる」




...結局、話はそれから脱線して、一旦未来ちゃんの話はお預けになった。荒船と影浦は自分の隊持ちだから、隊長としてその分仕事が多くて大変だとか、当真のところの冬島さんが最近新しいトラップを開発した自慢話とか(冬島さんは当真の隊の隊長であり、トラッパーの先駆者でもある)。...なんだかんだ言って、皆自分のところの隊員が大好きなのだ。私も、玉狛支部の皆は大好きだ(迅は...まあ、うん。一応大事な人物だ。とても癪だけど)。本部の方にいる旧メンバー_師匠でもある忍田さんだったり...今は派閥は違うけど、城戸さんのことだって。もちろん、他のボーダーの皆も。

 だから、未来ちゃんともちゃんと向き合わなくては。頭では分かっているはずなのに、いつまでたっても勇気は出ないままの自分が、昔から何一つ変わっていなくて大嫌いだ。



やわらかくひからびた罪の殻

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