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▼ 光

 友人に連れられて入った喫茶店で、小学生以来の幼馴染が働いていた。

 「は?」と声を出してしまいそうになるのを何とか堪えて、ソイツを凝視する。ソイツは私を見るやいなや笑顔をひきつらせたが(失礼な!)、すぐ元の調子に戻ると、「お席案内しますねー」と学生時代では考えられなかった営業スマイルを浮かべた。

「ね、イケメンでしょー!」
「はっはは・・・」

 席に着くと友人は熱く語りだした。確かに前に話に聞いていたとおり、無駄に顔は整っているし褐色だし金髪だけど、まさかコイツ_降谷零だとは思わないじゃないか!?いや米花町で褐色金髪イケメンって言われた時点で察すれば良かったのか?!それなんて無理ゲー?

 _と、内心は発狂したいほど荒ぶっているが、感情があまり表情に出ないタイプで良かったとこの時ほど感謝したことはない。どうやら降谷_いや、ここでは「安室透」さんとやらは、私立探偵で本業の稼ぎが少ないからここでアルバイトをしているのだとか(あと上に住む眠りの小五郎こと毛利探偵の弟子らしい。あのプライド高い降谷が弟子ってだけで笑える)。29歳でフリーター(笑)とか傍目からすればどう考えてもヤバいやつである。しかしそれを補うほどのイケメンっぷり。結局世の中は顔。思わずチベスナ顔になった。学生時代も性格アレなのにモテまくってからねぇ・・・。

 「安室透」さんは人当たりが良くて、ウィットにも富んでいて、それでいて決して奢ることないまさに完璧人間、らしい。まるで私の知っている降谷と正反対すぎて笑える。私の知っている降谷零とは、いつも仏頂面で一匹狼気質、確かに物知りではあったが、毎回テストの点数で私を負かすと、アイスやら何やらを奢らせる紳士の風上にも置けない、正にプライドの権化だった。

「でね、安室さんはねぇ...」

 友人は変わらず、私に安室さんがいかに凄い人物なのか力説しているが、正直に言って、めちゃくちゃ腹が痛い。聞いているだけで笑いそうになるが必死に腹筋でこらえているせいで、もう腹がピクピクしている。ついでに頬もピクピクしている。いやだって面白すぎる。まさかしばらく連絡取れなかった幼馴染が今、こんなことになってるのは誰も思わないじゃん...!

「で、女子高生達からついたあだ名が『あむピ』」
「ブッ」

 しかし流石にその発言で、必死に堪えていた決壊が崩れた。ヒィーと腹を抱えて笑う。友人は困惑しているが、机を叩いていないだけでも許して欲しい。カウンターから「安室サン」の絶対零度のような視線を感じるが、昔何回も浴びたことのある私にとって、むしろ懐かしいとさえ思ってしまった。私が元に戻るまでしばらく時間がかかったが、それまで安室サンの凍えた視線は飛んできていた。

 _だってまさか、気の置けない友人にしかあだ名を許さなかったあの降谷が「あむぴ」なんて可愛らしいあだ名をつけられるているなんて!



 安室サンは料理も堪能らしい。私が知っている限り、降谷は料理はからっきしだった。調理実習で作った味噌汁は塩味がききすぎていたし、玉ねぎのみじん切りは全然細かくなかった。むしろ、料理は、アイツの方が得意だった。

 どうやら安室サンの得意料理はハムサンドらしい。ハムサンドと聞いて、少し笑いそうになった。
 私は職業柄、警察組織には詳しい。それに警察学校に入校し警察になったはずの幼馴染が、偽名と職業を偽って今ここで働いていることが、彼が今どこの部署にいるのか明らかにしているようなもんだった。名字だけなら婿養子になった説が残るが、名前も変わっているのでその線は消える。それに、ずっと連絡が取れなかったことからも、きっと私の推測は当たっていることだろう。
 だから、まあ。カマをかけてみようと思って。

「・・・じゃあ、"ハム"サンドお願いします」
「・・・はい、"ハム"サンドですね」

 私の思惑に気付いたのか、安室サンは笑顔をひきつらせながらも「ハム」を強調して答えてくれた。だから、つまりはそういうことだ。ということは、同時期に連絡が取れなくなったアイツもきっとそうなんだろう。はぁ、と大きく息を吐いた。ここ数年の謎が一気に解けて、なんだか疲れてしまった。



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降谷と景光の幼馴染の夢主と降谷の話
恋愛成分は限りなく薄い。紳士な降谷はいない。

新聞記者である夢主は、上司の死をきっかけにある事件を追い始める。幼馴染の降谷と偶然再開した夢主が、降谷と協力関係となって事件を追っていくうちに裏社会に巻き込まれていく・・・話になればいいなぁ

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