はじまりはとつぜんに



 前世の記憶_それもリボーンの記憶をいくら持っているからといって、漫画の主要キャラに関われるはずがない。私のような人間は、せいぜいモブ、コマに少しだけ映る程度がちょうどいい。

 死因は分からないけど、前世でおそらく死んだ私は、何の因果が「家庭教師ヒットマンREBORN!」の舞台である並盛町に生を授かった。青春時代をリボーンと共に過ごした私は、そりゃあ実際に主人公の沢田綱吉や山本武といった面々を見た時には胸が高鳴った。彼らは生きてるいるのだと、紙面越しではなく生で見る彼らは眩しかった。

 でもまあ、私はただのモブ。一・二年生とクラスこそ主要キャラ達と一緒だったものの、特に関わることもなく。古里くんたち至門中学校からの転校生が来ても、ディーノさんが英語教師として並中に赴任しきても、私は傍観を貫き通した。ただ、原作がゆるりと流れていく様子を眺めていた。大体、マフィアなんて物騒なもの、こちらから願い下げである。

 そんなモブである私も、今は図書委員会に所属している。前世でも読書は大好きだったし、学校生活が忙しすぎて中々読む時間がなかったから、今世で本を読む時間がたっぷりあるというのはありがたかった。放課後、人のいない図書室で本を読み漁るのは最早日課だ。よく下校時刻を過ぎそうになってヒヤッとしたけど、まだ風紀委員に捕まるような真似はしていない。和やかに過ぎていく日々に、私はとても満足していた。

 だから、私は高をくくっていた。原作内容が終わった今、関わりを持つことなどないだろうと。ああ、傍観最高と、余裕こいていた私にこれは神様からの罰なんでしょうか。

「よお、お前図書委員だったよな。良かったら一緒に本、探してくんねーか?」

 困ったように眉を下げる金髪メガネのイケメン_ディーノ先生は、私にそう頼み込んできた。あー、顔がいい。...じゃなくって!

「どうして、私なんですか。委員長に頼んだ方が確実かと」
「今、委員長は受験勉強忙しそうだから悪いし。お前はまだ2年だし、受験もまだ先だから」

 それに、俺の持ちクラスの生徒だからな。とあっけらかんに笑うイケメンに、私のようなやつも覚えていてくれたと胸が高鳴るが、落ち着け落ち着け。彼は主要キャラだ。私のようなモブが関わっていいはずがない。

「(...でも、原作既に終わってるしな)」

 原作が既に終わっている以上、原作で関わりがなかった私が主要キャラに今更関わりだすとは思えないし。まあ1回だけなら大丈夫だろう。

「あー、じゃあ手伝いますよ」

 そう答えると、ディーノさんは笑って「ありがとな」と答えた。



...この時の私は、この軽率な行動がこれから起こる騒動のきっかけになるとは露にも思っていなかったのである。
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