花巻くん6 | ナノ



 その日部活に行くと、及川と岩泉が揃って驚いた顔をしていたのがおもしろかった。でも、それからのことは正直あまり覚えていない。都合の悪いことは忘れる主義だから、ということだけでなく、ただひたすら、がむしゃらに、バレーに打ち込んでいたからかもしれない。そのおかげなのか、1か月後には松川たちと共にBチームでプレーしていた。相変わらず及川と岩泉は打倒白鳥沢、全国、などと高い目標を恥ずかしげもなく口にしていて、一部の上級生は気圧されていた。むしろ上級生の気持ちの方がわかる花巻は、そういうことは心にしまっておきなさい、とその度にふたりをたしなめた。そのくらいのことを言う余裕ができたのは、成長というよりも、慣れかもしれない。及川と岩泉は自分を鼓舞するために「白鳥沢」「全国」という言葉を使っているのだ。もちろん、夢のままで終わらせるつもりは毛頭ないだろうが。

 次第に、2人に侵されたのか、全国模試夢じゃないかもな、なんて思うようになった。前なら口にするのもはばかられた「全国」という言葉を、花巻が口にすると、未だにくすぐったそうな顔をする松川に、いつもバツが悪い気持ちになる。
そろそろ勘弁して欲しい。

 シュークリームのお礼に、好きなものを奢るから。








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