花巻くん2 | ナノ


 練習は、かなりきつい。
 練習量というよりも、レギュラー争いが激しいからだ。単に花巻の中学では男子バレー部員が少なかったとも言えるが、青葉城西はとにかく部員数が多い。軽く2クラス分程の生徒がいて、体育館ひとつではもちろん練習できないから、第2、第3体育館も駆使する。他の体育館競技との折り合いもあって、日によって使える場所はまちまちだったが、それでも優遇されているなぁと感じる。バレー部は特別成績がいいというわけではないが、それでも文武両道を掲げる校風らしい充実した設備と指導者が存在する。
「マッキー!」
「っ……!」
 相手のスパイクに一瞬反応が遅れたのは、相手の体の方向と手のスナップの方向がずれていたのを見切れなかったからだ。飛び込んでなんとか上げるが、及川にフォローしてもらう形になる。
 メンバーをシャッフルして試合形式の練習を行うのは、決まって週末になる。その週の練習の成果という意味で取り入れているらしいが、そもそも週単位で上手くなれるのならこんなに苦労はしない。それでも、試合を行うと、こいつはこの前よりフェイントを取るようになった、だとか、あいつは人のいないところを狙って打てるようになった、とか、わかるにはわかる。
 サーブの威力が段々上がって来ている、というやつもいる。
「及川、ナイッサー」
 この男はサーブの威力をどこまで上げるつもりなのだろう。今でも十分に使いものになるのに。
 研ぎ澄まされた空気の中、及川がエンドラインよりはるか後方に立ち、長く息を吐く。キュ、とシューズと床の摩擦音が聞こえる。次の瞬間には、相手コートに弾丸と化したボールが突き刺さって……
「っしゃああぁ!」
 いなかった。
 及川のジャンプサーブは綺麗に弧を描いたボールへと変わり、セッターの手元に入る。相手の攻撃は万全の状態で成った。レフトからの攻撃はこちらのブロックに阻まれ、チャンスになる。今回はこちらがスパイクを決め、点を取った。
 それにしても、今のサーブを上げるとは。
「いや〜岩ちゃん潰しとこうと思ったんだけどな」
 上げられちゃった、との声とは裏腹に表情は険しい。岩泉に上げられたのがよっぽど悔しかったのだろう。岩泉は、知ってか知らずかこちらに目もくれず、他のメンバーからの賞賛の声に応えていた。
「及川、どんまい。もう1本頼むわ」
 花巻の声に、言われなくても、と及川の声が返る。だが次のサーブはネットにかかり、及川はぶすっとした顔でコート内に戻ってきた。威力はあるものの、安定していないのが及川のサーブだ。
「おい、イケメンが台無しだぞ。切り替えろ」
「……わかってる」
 人には切り替えろと言いながら、花巻は今のサーブを思い出していた。果たして自分はあれを上げられただろうか。それも、Aパスで。
 ざわりと胸の奥が痛くなる。岩泉は、どんどん上手くなる。それは日頃の練習を見ていてもそうだし、試合を見ていてもわかる。今のような、一瞬の輝きが、岩泉によく見られるようになった。以前まではよくカットを上げるというイメージではなかった岩泉は、ここ数ヶ月でレシーバーとして大きく成長した。本人に聞いても、打つ方が好きだし、などとしか答えなかった男が。
 額からこめかみへ汗が流れていく。花巻はそれを拭って、ひやりとした感触に眉をひそめた。












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