捕食者と被食者
2018/07/15 03:25



「ヘンリーくんはすごい鳥さんなんだよね」

ジュニアからそんなことを言われた。

「あ?すごいって…なんだよそれ」

聞けば、トゥイーティーから教えてもらったのだという。

「"もうきん類"って…ぼく、本でちょっと読んだことあるよ。生態系の頂点なんだって書いてあった。立派な鳥さんなんだね!」
「立派…?」

正直ピンと来なかった。
親父とか見てても、あの鶏なんかに返り討ちにあったりしてるし。俺自身も、立派と言われてもなにも嬉しくないし。

「そういう種ってだけだろ。みんながすごいわけじゃない」
「?そうなの…?」
「ああ。馬鹿な奴は馬鹿だろうよ」
「…そうなんだ…?ふーん…」

ジュニアは何か考えてるような素振りを見せて

「じゃあ、ヘンリーくんはヘンリーくんだから、立派でかっこいいんだね」

…そんなことを言い出した。

「…何言い出してんだお前」
「え、だ、だって…ほんとに…ヘンリーくん…かっこいいから……。ご、ごめんなさい…」

俺が怒ってると思ったらしい。
ジュニアは怖気づいてしまった。
…違う。
俺はその時、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだ。

「…」
「……」
「…。何で…」

しばらくの沈黙の後、どうして俺のことをそんな風に言うんだと、ジュニアに訊いた。

「え?」
「俺を誉めてどうするつもりだよ?」
「それは…」
「ヤることだって変えねーし。優しくなんて出来ねーもん。わかってるだろ?」
「…うん。違うの。あのね、…ねぇ、ヘンリーくん」
「?」
「抱きついて、良い…?」
「…好きにしろよ」
「えへへ、やったぁ♪」

ジュニアは嬉しそうに俺に抱きつき顔を埋めた。
仕方ねぇ奴と思いつつも、俺は満更ではなかった。

「あのね…」
「ん?」
「ぼく…よく怒られるんだ」
「親父にか?」
「ううん。お父さんは優しいよ。…知らないおじさんに」
「」
「ぼくがいけないの。ぼくがその人たちのナワバリに勝手に入っちゃうから…。…でも、ね」
「…でも…?」
「…痛いんだ。頭もぶたれるから…頭がくらくらして
、気を失うこともあって…。そんな時にね、思うの。このまま死んじゃったらどうしようって」
「……」

ジュニアの表情は埋まっててわからない。
でも、泣きそうな声をしていた。

「ぼくはヘンリーくんとは違ってただの野良猫だから、立派なことはなにも出来ない。…でもね、それでも、何か、誰かの役に立ちたいなって思うの…」
「ジュニア…」
「それでね、ぼく…ヘンリーくんのこと聞いてね、夢が出来たんだ。」
「?…俺…?」
「うん。耳、貸して…」

顔を上げたジュニアは、そのまま俺にそっと耳打ちした


『死ぬなら、ヘンリーくんに食べられたい』


「な、…」
「ヘンリーくんの一部になれるなら、ぼく、すごく幸せなんだ。ヘンリーくん強くて、かっこいいんだもん。ぼくの憧れだから。ぶたれて死ぬより、全然良い」

屈託のない笑顔をジュニアは俺に向けた。
きっとこれは本心なんだろう。


なんでだ。

なんでそんな顔でそんなことが言えるんだ。


その野郎共の所為か?
それとも、俺の…?

わからない。

…やるせない。


「…馬鹿だよ、お前」
「…。……そうだよね。えへへ、ごめんね…変なこと…」
「でも、」
「え?」

「…叶えてやるよ。いつでも、お前の望むときに」


違う。
言いたい言葉はもっと、別にあるのに。
それが見つからない。


「…ありがとう、ヘンリーくん。大好き…」

心底嬉しそうな顔をみせて、ジュニアはまた俺の胸に顔を埋めた。


「食ってやる。

  ……それしか、してやれねぇならな」


ジュニアの頭を撫でながら、俺はポツリと呟いた。







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