負けたのは初めてのことだった。
目が覚めるとベッドの中で、世界は平和にまみれている。やり直しのきかないのは悪役のつらいところだ。起きたってすることはないだろうし久しぶりにゆっくり眠ろうか、ともう一度布団に潜り込んだところで、扉が開いた。勇者さまの、おでましだ。
「よく眠れましたか?」
温厚で、強い。正義感の塊のようなやつ。話したくなくて寝たふりをすると、困ったように食事だけ置いて出て行った。心配されているのか。どこまでお人好しなのだ、と思いながら、誰もいない部屋でそれを食べる。人に優しくされたのなんて、いつぶりだろうか。
「今日も、起きてくれないんですね」
あれから勇者は毎日決まった時間に部屋に来た。一度も会話をしたことはない。
「明日は、来るな」
初めて言葉を発する。勇者は驚いたのか、部屋の空気が揺れた。
「……何を勘違いしてるのか知りませんが、僕はあなたに世話を焼きにきているわけじゃありません」
「何が目的だ」
「もちろん心配はしています。あなたが世界征服を狙ったわけだって聞きたい。それに、僕が見つけ切れていないトラップの解除やまだ反抗するモンスターの制御。やることも聞くことも山積みなんです」
「一週間だ」
少しの失望を覚える。だからといって、ここまでされておいて無視するわけにもいかない。親切心のつもりで言った言葉は、軽くいなされる。
「時間をおけば、それだけ脅かされる命が……」
「じゃあ三日だ。少なくともそれだけの間はここには来るな。そのあとならなんとでもしてやろう」
そう言うと、勇者は軽蔑したような目でこちらを見る。私だってそうしたくてするわけではない。こちらの事情も察せなくて、何が勇者なのか。
ぞくん、起きた瞬間から、身体に快感が走った。
ベッドに押しつぶされた尻尾がシーツにこすれて、思わず身をよじる。
「く、そ」
発情期、というものなのか。数年に一度、どうしようもなく全身が敏感になる日がある。少なくとも三日間、この快楽に耐えなければいけないのだ。
できるだけ身体を動かさないようにして、じっと身を潜める。やり過ごせるだけやり過ごさないと、身が持たないから。
そんな苦労を打ち消すように、念の為と魔法で閉じていた扉が破られて、勇者が入ってくる。
「貴様、やっぱり何か企んで……あれ?」
間抜けな声を出した勇者は、私が布団の中にいることに拍子抜けしたらしい。少しずつ近づいてくる気配に、嫌な予感がする。
「さわる、な」
できるだけ低く唸ったつもりが、掠れただけだった。勇者が手を止める。
「もしや、これがあの噂に聞いた……」
「うわさ?」
「魔王の唯一の弱点は、周期的に訪れる発情期だ、とかなんとか」
そんなに知られているのか、と恥ずかしくなると同時に、湧き上がってくる快楽を抑えられなくなる。人といると、余計に反応してしまうのだ。だからひとりになりたかったのに。
「苦しそうですね」
「やっ、ふ、……」
そのとき私は忘れていた。勇者が、人一倍お人好しなことを。
「僕にできることがあれば、手伝いましょうか?」
善意からくる言葉は頭の中で勝手に甘く響いて、思わずこくこくと頷いた。
「そこ、触って」
「ここですか?」
中心を撫でられると、電気が走ったような快楽が駆け抜ける。
それ、と言うと、勇者はやわやわとそこを撫でる。
はだけた浴衣の間から直に触られるともう我慢できない。それでも声を出さないように、必死に唇を噛む。
「尻尾、も、」
「わかりました」
尻尾の付け根をくにくにと揉まれると、声にならない喘ぎが溢れる。口の端から唾液が垂れるのも構わず惚けた顔でのけぞって痙攣する私に気を良くしたのか、さらに先端を口に含まれた。
「尻尾、そんなにきもちいいんですか」
口に入れながら喋られるとたまらない。
おかしくなりそうな快楽の波に、流されないように必死に耐える。
「きつい、から、もっと優しく、」
絶え絶えにそう言うと、勇者は頷いてやんわりとした愛撫に切り替える。
「ぁ、そ、それ……ん」
感じいるように腰を揺らして、唇を舐める。
気持ちいい。忠実な勇者を見上げて、次の指示を出す。
「胸も、」
被さってきた勇者に軽く食まれると、ん、と身体が跳ねる。優しくなぶるように舐められて、そこからとろけそうだ。
「はっ、んっ」
反対側に無意識に手が伸びる。爪先で軽く弾くと、びりびりと痺れる快感。
早くぐちょぐちょになった下に触れて欲しくて、そこに手を導く。
「出した、い」
吐息交じりにいうと、ゆるく扱かれる。それに合わせて腰を動かすと、動きは少しずつ激しくなる。
「勇者、もう、出っ、くっ」
どぷっと、溢れる。
身体が弛緩して、それでもくすぶるような快感は消えない。
「どうですか?」
「まだっ、足りない」
「わかりました」
そう言った勇者は、イったばかりのそこを口に含み、ちゅ、と吸い込む。中に残ったのまで吸い出されて、その感覚に身悶える。
「それっ、だめだ、ん、ぁ」
「あ、ごめんなさい。強すぎましたね」
口を離して、太ももの方へ唇を寄せる。付け根から腰の辺りを舐めたり撫でられたりすると、じわじわ奥の方が疼く。
「ゆう、しゃ」
「なんですか、魔王」
「うし、ろ、中も……」
普通そんなところに馴染みなんてないはずで、それでも我慢できずに伝えると、勇者はなんでもなさそうに頷く。
「痛かったら、言ってくださいね」
ぺろ。まさかの感覚に、驚愕と快楽が一緒くたになって押し寄せる。舌の柔らかい感覚がそこを解す。今まで経験したことのない柔らかさと気持ちよさ。流し込まれる唾液にとろけそうだ。
「もう指、いれて大丈夫ですか?」
たっぷり舌で解されたそこに、つぷりと指が入る。奥まで唾液を染み込ませるみたいに動いているように思えて、ぞくんと身体が震えた。
「ゆ、しゃ、そんな、したら」
「痛かったですか?」
「ちがっ、の、欲しくなる、から」
被さっている勇者を引きつけて、逆に押し倒す。暴れそうなのを押さえてベルトを引き抜き、腕をベッドヘッドに拘束する。
「ちょ、っと、魔王、なにする」
「も、我慢できない」
ズボンを寛げてモノを取り出す。中途半端に立ち上がったそれが私を見てそうなったのかと思うとぞくぞくする。
ちゅぅ、と口に迎え入れる。じゅぷじゅぷと音を立てながら出し入れすると、それはあっという間に質量を増す。
「んっ、ふ、ゃ」
「ま、お、」
口の中まで性感帯になっている今は、咥えているだけで気持ちがいい。独特の味に犯されるのがたまらなくて、夢中になってしまう。
上目遣いに見た勇者は展開についてこれないのか、息を荒げながら抵抗の意思を見せる。
「ん、ちょっとだけ、我慢しろ」
「ちょ、魔王、それ、は」
もうそろそろ限界らしい勇者のモノを、名残惜しく離す。
寝そべる勇者にまたがって、さっき十分慣らされたそこに切っ先をあてがう。広がる多幸感。多少の痛みも気持ちよさに変わる。
「あっ、あ、勇者!んぁっ」
必死になって腰を振る。揺れる尻尾が勇者の足に触れて、きゅぅっと締め付けると中に溢れる勇者の精気。つられるように達したあとは、倒れこんでびくびくと余韻に酔いしれる。