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まだ幼い子供の面影を残した少年が、ゴロツキのような男たちに囲まれている。自分と同い年か、たぶん年下の男の子。
助けないと、と思っても、足が動かない。囲んでいる男たちはどいつもこいつも屈強で、自分の力じゃ一人だって倒せそうにない。だけど。
あんなか弱そうな少年が傷つけられるのは許せなかった。そんな甘い世界じゃないとわかっていても、自分の手が届く範囲でくらいそんな悲劇は起こしたくない。

「や、やめろ!その子を離せ!」

震えた声は、意外にも路地裏に響き渡った。振り向いた男たちに睨まれて足がすくむ。それでも、なんとか少年を助けるために僕は地面に落ちていたパイプを拾って握りしめる。

「なんだよ、ヒーロー気取りか?」
「お前一人で何ができるってんだ」

男たちに嘲笑を浴びせられ、ぐっと息を飲む。
少年の表情は見えないけど、少しは安心してくれていたら嬉しい。
僕は足を踏み込んで、パイプを振り上げた。一番近くにいた男をそれで殴る……つもりが、軽く弾かれてしまった。

「よえー。なに、ボクまともにケンカしたこともないのに出てきたの?」
「よく見りゃそんな悪くねぇ顔してるし、2人まとめて売り飛ばすか?」

渾身の一撃を防がれて、嘲笑われる。出てきただけ無駄だったのかもしれない、と落ち込みかけたとき、少年の凛とした声が聞こえた。

「なるほど、面白いね」

薄汚れた街に不釣り合いなほど透き通った白い肌。
にこりと微笑んだ顔は綺麗で、思わず見惚れてしまった。

「なんだお前、こんなんがいるだけで助かるとでも思ってんのか?」
「二人まとめてボコられるだけだ……ッ!?」

怒鳴り立てる言葉が途切れた、と思った瞬間。そこに立っていた男たちが地面に崩折れた。驚く暇もなく、地面は赤色に染まる。
そこにいた人間たちは今の今まで動いていたはずなのに、ただ血を垂れ流すだけの物体に成り果ててしまった。

「え、何が……」
「ありがとう、助けに来てくれて」

少年は、綺麗な笑顔とお礼の言葉を向けて僕に近づいてくる。ぐしゃりと、人間だったものを踏み潰しながら。

「君が、やったの?」
「うん?これのことならそうだよ。でもまさか、ぼくを助けようとしてくれる人がいるなんて驚きだ」

穢れのひとつもなさそうな少年が、こともなさげに死体を見ながらそう言う。

「僕は、なにもできなかった」
「そんなことはないよ。ぼくのことを見て、助けようとしてくれた。しかも、下心もなにもなしに。そんな人間はなかなかいないよ」

足元の惨劇が嘘みたいに綺麗な笑顔で、少年は微笑む。
そして真っ直ぐに伸ばされた腕に、僕は魅入ってしまった。

「ぼくはアルヴィ。よろしくね」

足元の死体ひとつぶん背が高くなった少年──アルヴィが僕を見下ろす。おずおずと伸ばした手は柔らかく包まれて、あたたかさを感じた。

「僕は、カイト。ねぇ、よろしくって……」
「ぼくと一緒に行こう」

行き場のなさを見透かされたような言葉に驚くと、アルヴィはにこりと笑みを深める。

「きみはぼくと同じ、ひとりぼっちでしょう?」

歌うようなその言葉に、僕は頷くことしかできなかった。