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(だれ、だよ、コイツ……)

少年は焦っていた。学校では派手で教師にも見て見ぬ振りを通される札付きの不良。ちょっとやそっとの修羅場では動じない、そんな少年が、全力で焦っていた。心の中では。

「ねみーな」

裏腹に、身体は呑気にあくびをしながら伸びをする。
寝起きだからいうことをきかない、なんてレベルではない。完全に、誰かに操られてでもいるかのようだった。

異常はそれだけではない。まず自分の格好だ。何故か素っ裸で、それなのに髪型だけはいつもの通り整えられている。
そして極めつけは。少年の真ん前から舐めるような目で身体を見つめる中年の男。息のかかりそうな距離にいるのに、まるで見えないかのように振舞ってしまう。

「まずは、歯磨きだねぇ」

男がにたにた笑いながらいうと、少年は聞こえているのかいないのか、洗面台に向かう。鏡の前に立った少年は無感情な顔で片足を流しに上げて、歯ブラシを手に取る。クリアミントの歯磨き粉をたっぷりとつけると、戸惑わずアナルに挿入した。

(んっ、だよ、これ、きもちわる、勝手に……いやだ、助けて……)

頭の中はぐちゃぐちゃなのに、鏡に映る自分は毎朝当たり前に行うことかのように、ややめんどくさそうに歯ブラシを出し入れしている。
潤滑油がわりの歯磨き粉がひりひりと冷たい刺激を与え、それを柔らかいブラシで擦られると、痛みだけではない感覚が湧き上がる。
一度先が前立腺に当たるとそのあとは機械的にそこを押しつぶす自分の手に犯される。目の前の自分は無表情で痛いくらい勃起したものを晒し、時折痙攣しながらも激しく中を責め立てる。そんな倒錯した世界に、少年はおかしくなりそうだった。

(や、だ。なんなんだよ、これ。夢か……でも夢にしたら、なんかすげー、きもちいし、いや、嫌だけど!でも、なんか、変……)

少年はそんな光景を興奮したようにじろじろ見つめる男の存在も忘れて、心まで溶かされそうになる。張り詰めた前がピストンに合わせて揺れて、先走りを垂れ流す。

「もう片方の手で、前扱いて。イきそうになったら歯ブラシを抜くことね」

言われるままに、手で作った輪っかで前を扱き立てる。あくまで無表情に、日常的な、当たり前のことであるかのように。
激しく擦り、歯ブラシに前立腺を刺激されたタイミングで少年はずちゅ、と歯ブラシを抜く。

「じゃ、歯ブラシで、先っぽ擦ってイってみようか」

ごしゅ、とブラシが敏感なそこに触れる。刹那、弾けるような快感。ブラシの触れたそこからどぷ、どぷ、と溢れる精液を当たり前かのようにそれに絡ませて、あろうことか、そのまま口に咥える。

(おぇ、ぅ、きもいって、なんだよ、苦いし、まずいし、つか、今までケツに突っ込んでて、しかも、精液、かかって、ぅ)

内心では今すぐ吐きそうなくらい気持ち悪いのに、身体はいつもする通り歯ブラシを動かす。口の中におよそ触れていないところがないくらい自分の精液を塗り込められ、普通の歯磨きと違うことに、それを飲み下させられていた。生理的嫌悪からかせり上がる胃液。それでも、鏡に映る少年は普段の通りの顔をしていた。

「いやー、よかったよ。これを常識に定めちゃおっかなー」

男がにやにや笑いながら言うと、少年は糸が切れたように咳き込む。

「んだよ、てめ……あれ」
「あー、さっきの催眠解いたからね。どう、身体が自分のじゃなくなるって、どんな気分なの?」

男に性的な視線を浴びせられた少年は、気持ち悪さと本能的な恐怖を覚える。

「きめーんだよ」

勢い、手が出る。思いきり殴ると男は無様に床に転がって、思いのほか自分に利が戻ったのかもしれないと感じた少年はにやりと笑って男を足蹴にする。

「きめーことさせやがって、変態が」
「ごご、ごめんよ、僕が悪かったから」
「気が済むまで殴る。あと、慰謝料払えよ」

攻撃にうっ、と呻く男に、少年は清々しさを覚え、要求を重ねる。

「とりあえず、口ん中すげーきもちわりーから、お前の唾液で消毒しろよ」
「え、そんな、僕にはそんなこと……」
「おら、さっさとキスして唾液飲ませろよ」

いつの間にか常識を変換させられていた少年は、男にまたがって唇を重ねる。舌をねじ込んで男のそれを引き出し、じゅるじゅると音を立てて激しく吸い上げる。

「チッ、こっちからだと全然飲めねーな。もっと飲ませろよこのド変態」

文句を言いながら自ら組み敷かれるような形に収まって舌を突き出すように口を開いた少年は、男がたら、と垂らした唾をごくごくと飲み込む。

「こ、これだけ涎飲ませてあげたんだから、お金は勘弁してよ」
「しょうがねーなぁ……ま、だいぶマシになったし今日はこのへんにしといてやるよ」

そもそも男が誰でなんで自分の家にいるのか、なんて疑問は、もはや少年からは抜け落ちていた。

「さっさと帰れよ、気色わりーな」
「うん、いいオカズができたよ、ありがとう」

男の言葉にも、少年は『男に対する嫌悪感』以上のものを感じない。

「じゃあ、僕は帰るから。僕が帰って10分経ったら完全に元の思考に戻るよ。これから先君はさっきのことをしょっちゅう思い出してしまうけど、なぜか僕の顔だけは思い出せないし、さっきのやり方で僕とのキスを思い出しながらするオナニーじゃないとイけなくなってしまうからね」

男の言葉にうんざりしたように頷いた少年は、歯ブラシを元の位置に立て、自分の部屋に戻る。
10分後彼の部屋から響くであろう断末魔を想像して、男はにたりと気味の悪い笑顔を浮かべた。