記録更新中A



魔王が向かったのは城の一角に位置する技術室。
戦時中は人間界の科学技術の研究、解析を主としていたが、今となっては機械関係に興味を持つ者たちが研究結果を応用して自由に様々な物を開発、製作する半ば趣味の空間と化していた。

「ほうほう、これはまた大層な」
「直せるだろうか」
「そればかりは細かく見てみないことには」
魔王が念の為にと布で包んでいた壊れたロボットを見せたのは、父の代から仕えていて、今や技術室の生き字引とも言えるドワーフだ。
「この金属は…人間界の産物…一見すると目立った破損が見られない…となると故障の原因は内部か…」
ブツブツと呟きながらロボットをくまなく観察している。
こうなってはこちらから何を言っても無駄なことは分かりきっているため、魔王はそのまま技術室を後にした。

二日後、技術室に呼ばれて再び訪れた魔王はエルフからロボットの細かな分析結果を聞いた。
ロボットの故障の原因は内部の動力部分が酷い損傷を受けたことによるもので、外観に損傷が見られなかったのは、表面に形状記憶合金が使われていて受けた損傷が合金によって塞がれたためらしい。
ロボットは戦闘用ではなく、戦場の様子を記録、送信する自立型記録用ロボットだった。
当然の事ながら人間界も我々と同じように敵の戦力を研究、解析をするために造ったのだろう。
それ故にこのロボットに戦闘能力はないに等しく、申し訳程度に備えられた小型ナイフも攻撃と言うより蔦など進路の妨げになるものを払う目的のものだと言う。
「動力源の損傷は修復不可能なレベルでしたので、こちらの世界に合わせて電力供給から魔力供給のものへ作り替えました。それから…」
エルフは一瞬言いよどみ、逡巡の後に続けた。
「動力源修復作業の際に、ほんの僅かですが破損する直前の記録映像を発見しました」
「記録映像…」
次は魔王が逡巡する。
記録映像ということは戦場の様子が収められているということだ。
「ですが、ノイズが激しく、映像内容も今の情勢には全く意味をなさない為、即刻データを破棄しますので…」
いくら使い物にならないとはいえ、戦場の様子の映った映像があると聞けば魔王が心穏やかでないことはエルフも百も承知だ。
伝えずに隠す、ということも出来たがそれは平和を望んだ魔王に対する最大の裏切りだと思っての報告だった。
当然、ノイズがあろうがなかろうが何かに流用しようともエルフも思っていない。
「その映像、今見ることは出来るだろうか」
「え?あ、はい。まだ内容確認のコンピュータに入ってますので…」
エルフに連れられて魔王はモニターの前に立つ。
エルフがキーボードを操作するとモニターに映像が流れ始める。
画面の大半をノイズが走るが、その隙間から見える風景が魔界であることを示している。
人間や魔物が入り乱れ、科学と魔法がぶつかり合う。
音声も途切れ途切れだが、怒号、悲鳴、何かを叫ぶような声などが耳を劈く。
赤い空が一瞬白く瞬いたかと思えば、雷鳴のような轟音と共に間髪入れずに画面全体が白く染まり、数秒の地響きの後に画面が黒くなる。
「以上、です」
魔王は黒くなった画面をまだじっと見つめている。
重い沈黙が流れる。
「エルフよ、あのロボットは記録用だと言ったか…」
「は、はい」
「システムの設定を書き換えることは出来るだろうか?」
「ええ、もちろんプログラムとしては如何様にも書き換えることは可能ですが…」
いまいち魔王の意図が読み込めないエルフは困惑しながらも答える。
「確かに今はもうこのような大きな争いはないが、小さな諍いやケンカはあるだろう。もし今のまま修理して動くようになったとて、設定が争いありきであるならそれを根本から変えてやりたいのだ」
たとえ計算で動くロボットだとて、醜い争いよりもささやかな幸せを記録した方が良いだろう、と。


「はやくはやくー!はやくしないとおいてっちゃうよー!」
「まってよ、フェアリー!」
「ぬけがけずるーいー!」
「ミナサン、待ッテクダサイ」
あれから魔界には賑やかな声が一つ増え、ありがたいことに今日も平和である。

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