レッドとコトネ

「こんな辺鄙なところまでよく来たね。さて、なにを話そうか。いや、なにを聞きたいのかな」

茶色の瞳は白銀のこの世界に彩りを温かみを与えるわけでもなく、ただただぽつり主張を成し整然とよく映えている。冷たいわけでも温かみのあるわけでもないひたすら真っ直ぐなその目は、かつて一戦交えたときから変わらない。それは、その姿も。
私の知らない世界がここにはある。いいや私だけじゃなく、誰も知らない。彼だけが知っている。だから私はまたここに来たんだ。またとはいいつつ、以前のことなんて、何も知らない。

「バトルしてください」
「二回目か。前に俺は君に負けた」
「知りません、そんなこと、知りません」
「……ああそうか。君は、何回目なのかは分からないんだな」

哀れむわけでも同情でもなんでもない、ただ事実を淡々と述べる声に私は縋る。頭の中、もやつく回答を濁して果てに何も映らない輪郭線が指示するままに続けて来た私の思考回路さえ、誰かに仕組まれていたものだと言う。私がじゃない。彼女が、だ。やはり目の前の人物によく似ている、と思った。その纏う雰囲気が。

「これは私の旅よ!」
「そして君は最後にここにきたんだな」
「そう、そう、でも最後じゃない!」

悲痛の声を上げることがなんと痛ましいことだろう。いいや、それは理解したくない。消さないで。否定しないで。
この旅はだれのもの?
それはもちろん、私のもの。そう答えたかったのに、声が出ない。誰だ、こんな風にかき混ぜているのは、誰だ。彼女のせいかと思ったことは何度もあったけど、そうじゃなかった。むしろ彼女こそただの揺蕩う亡霊。何もできない、何も干渉などできないまま放流するだけの、残り滓。
だから私はああはなりたくないのと必死に努力してきた。そのはずだったのに、どうして。

「可哀相だけど、きっともう終わってしまう。君は知っているはずだ。何度も何度も、味わっている。例え世界中の人が忘れてもだ」

強く吹雪く。
雪を散らし、世界は鈍る。
白の世界は、黒色へと変わっていく。
動きがゆっくりと緩慢になり、音さえも消えていった。泣いても喚いても、彼らの意思には逆らえない。なんて無力というか雑な扱いを受けてしまっているのだろう。仕組みとか理とか面倒なことはどうでもいい。ただ私はもっと、旅を続けたかったのに。世界の意思はそれを許してくれない。どうやら私はもう用済みらしい。

「可哀相なコトネ。またおいで、またバトルをしよう」

可哀相だというわりには笑ってるじゃない。
そう言葉を返すことは、できなかったけれど。

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