その日は試合だった。
結構な強豪校だったため、俺はスタメン。
そして、彼女の名前も試合を見に来てくれる、と言った。
「ハァッ、ハァッ」
病院にも関わらず、俺は全力で走った。
そして、ある病室の前で止まる。
ガラリと扉を開けると、そこには名前の家族と、医師がいた。
「緑間君…」
名前の母親は「来てくれてありがとう」と頭を下げた。母親の横にはすすり泣く弟。窓の外を見上げる父親。
俺は荒い息を整えると、医師を見る。
「…君は、名前さんの彼氏かな?」
「…はい」
「そうか…、辛いがこれは現実だ。名前さんのタメにも、ちゃんと受け止めてあげてくださいね」
「…はい」
「それじゃあ家族の方、お話があるので」と医師は家族を連れて病室を後にした。
名前の家族は「ゆっくりお話してね…」と俺に言った。
「……」
病室に取り残された俺。心を落ち着かせて初めてベッドを見た。
「……名前」
そこには、安らかに眠る名前の姿が。
もともと名前は心臓が悪く、よく病室に入退院を繰り返していた。
最近良くなってきたそうで、学校にも出るようになり、昨日まで元気に俺の前で笑っていた。
けど、
名前は俺の試合を見に行く準備をしていて、心臓発作を起こして、亡くなったんだ。
俺は名前の額に触れてみる。
肌は青白く、冷たくて。
試合中に連絡を受け、そのまま飛び出してきたが、泣かない、と決めたのに。
名前の姿を見ていると、自然と涙が溢れてきた。
「名前…」
いくら呼んでももう返事は聞こえないが、呼ばずにはいられなくて。
冷たい唇にそっとキスをする。
「サヨナラ」という、名前の声が聞こえた気がした。
さよならのキス
切ないようなそうでないような。
10のもう一度キスをに続きます。