肉体に爪を立てても、少しばかりの血が出るぐらいですむ。その傷が何事もなく完治すれば、肌に痕が残ったりはしないだろう。肉体的にはそうそう痕など残らない。では、精神的には…。人間に“心”というものが本当に存在するのであれば、そこに爪を立てられできた傷はなかなか治らない。爪痕は深く色濃く残ったまま。

お前は形のないものにばかり、残してく。それを残された者の気も知らないまま、爪を立て、深く抉って、色濃い爪痕を残す。爪痕という、その古傷が時間が経つほどどんなに疼くか知らないだろうに。

いま何処にいるのか。
その問いかけに答えてくれる者はいない。誰も答えをくれはしないこの世界に

(命の欠片で満たされたまがい物の夜空に)

ただ、
無性に胸が痛くなった。

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