契約者の能力を持つ前、本物の星空が見えたころ。俺は1人の女と知り合うことになる。
その人を初めて見かけたのは、少しばかり寂れていて夜の幕が下りた公園。俺がよく天体観測をする場所として使っていたところ。芝生からそう遠く離れていないベンチに一人座っていた。
彼女は夜闇の雫を落としたように艶やかな黒髪でそれと相反した白皙の肌がとても美しい人だった。初めて見たとき彼女は長いこと夜空を見上げていたような気がする。初めから彼女を見ていたわけではないため…長いこととはいっても、いつからそこにいたのかさえ分からないが。

そのときは、見つめてしまった視線に気づいたのか、こちらを見てまた互いに目を逸らす。その一瞬で終わった。
一瞬目が合っただけ。、それで、それから何事も無く、お互い思いおもいのことをする。自分は天体観測のために持ってきた白黒の望遠鏡を出し組み立て、覗く。彼女はそらした視線をまた夜空へと向ける。

それが、これからまた出会うなんて思ってもいない、関わりなどさしてない彼女との一番最初の出会いだった。



偶然に偶然が折り重なるとそれは必然

誰かが言っていたような、どこかで読んだような、その言葉が頭のなかで木霊した。二度目の出会いはないだろうと思っていた。いや、もうその彼女のことなど一週間も経って頭の隅に追いやられ忘れていた。けれども一週間前にこの廃れた公園で星空を見上げていた彼女は、ほんの一瞬だけ目が合った彼女はまたこの場所にいて出会うことになった。あのときと同じ公園で。もう会うことはないだろうと思っていたのに。そう思っていた予想はことごとく外れた。彼女は一週間前と相も変わらず同じベンチに座り、星空を見上げていたのだ。

その様子を一週間前と同じ場所から見ながら、望遠鏡を組み立てる。こんな夜に女の人がひとり公園で星を眺めているなんて珍しい人だな、などと的外れなことを考えながら手を動かす。そして望遠鏡を覗きながらピントが合っているかを確かめた。ピントは合ってる、彼女のことが少し気になったがそこから自分を魅了する世界に包まれた。目の裏側まで脳髄にまで満たされるような星空に息を呑みながら。

戻る

- ナノ -