主人公目線

私は逃げ出した。なにからって、そりゃ現実から。

前を向いて歩こうにも進んだその先は断崖絶壁、落ちたら即死は目に見えてた。後ろに引き返そうにも足跡っていう私が歩いてきた軌跡なんて見えなくて、引き返したら暗闇のなか迷子になって彷徨うことになるのはわかりきってた。前に歩くも進めない、引き返そうにも戻れない。右も左もその先真っ暗。こんな例えが私にはお似合い。

私には命がけで断崖絶壁をどうにかしようなんて発想はできても実行はできないし、迷子になってもいいから引き返していい道筋を見つけるなんて勇気もなかった。そんな自分の状況が嫌で自分勝手に逃げ出した。組織で諜報員として働き、ときには戦闘員として暗殺の仕事を入れられ手だけと言わず身体全体が真っ黒に真っ赤に染まる毎日。人権なんてくそくらえとでもいうような扱い、毎日毎日上司の指示を犬のように待ち、その指示にまるで操り人形のように従順に従う日々。それが当たり前だとでも言うようにふんぞり返る上司。それが私の中で日常と化していくその状況と嫌なのにそれを甘んじて行動を起こさない私に前を見据えるのも後ろを振り返るのも、嫌んなってしゃがみこんだの。

…出来ないと。出来ないと決めつけているだけで組織をどうにかしようと思えば行動なんて、いくらでも、なんでも出来たはずなのに。私はなにもしなかった。しようなんて思わなかった。組織に追われようが関係ない。もといた場所に居場所がなくなったってもうどうでもいい。そう思ってただがむしゃらに逃げ出した。でもあそこには友人ともいえる人が幾人かいたはずなのに。

「……蒼」「蒼っ!」「蒼」私を呼ぶ声が聞こえる。

彼らが私の代わりに大変な目にあうのは、組織の方針とか今までの経験とかいろんなことを含めて直感的にわかってた。わかってたのになんて非道な人間なんだろう。ああ、もう私、人間じゃないのかもしれない。

私は 逃げ出したのだ。

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