上を見上げれば、チカチカと光っているように見える偽りの星たち。下を見下ろせば、ネオンのまばゆい光、車はライトを光らせ二酸化炭素を吐き出し、人は微かに蠢いている。 血に濡れた契約者を表すこの偽りの星たちの光と、欲深い人間が作り出した目につくような人工的な光。どちらが綺麗かと聞かれればわたしは困る。どちらも綺麗とはわたしには思えないから。
ただ、どちらもよごれてるなとは思うけど。
びゅー…、ビルの屋上は風当たりが強いし、深夜だということもあって防寒着なしでは寒い。はぁ…と息を吐けば白くなるし、さすがにこれは堪える。 ひとり、この偽りの星たちと地上の光どちらが綺麗か悶々と考えていたけれど、結局辿り着く答えは『どちらも汚れてる』って答えで面白みはないし。この寒さで思考も停止した。考えることを止めた脳はどんどん温度が下がってく。立ってると冷たい風を受ける面積が広くなるからしゃがんだ。
ああさむい。
だいたいなぜわたしはこんなところで、人を待ってねばならないのだろう。わたし自身に与えられた任務はしっかりこなした。たぶん、1ミクロンも違えず完璧に。 自分の任務はちゃんと終えたんだから帰っていいはずだ。たとえそれが三人四脚(いや正確には二人三脚とあと猫一匹なのだが)のチームプレイだったとしても。
「(そうだよ。わたしが待つ必要ないんだ。黒たちが遅いのが悪い。さっさと帰っちゃ…)」 「帰るぞ」
びくっ!気配なくかけられた声に背中が震える。バッと振り返れば、漆黒のなかに浮かび上がる白い仮面。
「…黒おっそー。寒くて死ぬかと思った」
生死を賭けた任務より寒さで死ぬかと思ったと彼女は言う。顔は見えないが呆れるようにため息をつくと黒は右手を伸ばした。
「任務完了した。帰るぞ」 「はいはい、猫は?」
手を掴んで立ち上がる。
「先に帰った」 「あんの薄情者め…」
こちらは寒いなか待ってたというのにそれはない。まぁ自分も勝手に帰ろうとしてたのだから、人のことは言えないが。
でも、掴んだこの手があったかかったから、許してやろうかなと思った。
手をつないで 見上げる世界は どうでしたか (それはそれは) (あたたかかったよ)
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