きれいなそらを
こんなにも綺麗な空を、見上げた時に何も思わないのだろうか。
あんなにも綺麗な月夜を、見上げた時に涙がでないのだろうか。
あたりまえになっていく日々の中で、ふと立ち止まることはないのだろうか。
全てを放り出したくなるような衝動と、全てを抱え込みたくなるような孤独感。
ここに生きるもの達は、あたりまえをあたりまえと疑わず、ただその幸せをあたりまえと享受しながら、崩れようとしている世界を省みない。
あたりまえがあたりまえに無い世界で、必死に生きていた自分達はなんなのだろうか。
「そらが、きれいだなぁ」
僕には、そんな一言が、何より嬉しいというのに。
手代木店長、と呼ばれた声で我に返る。古い付き合いらしいこの店員は、正直少し、目障りだ。
忙しく、ただ黙って空を見て生きていくことが許されないこの世界は。空が汚れてきたとしても、きっと誰も気づきはしないのだろう。
...fin
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