The infinite world | ナノ



今はまだ弱い絆


「ソーゴ、ごめんなさい……」

 小さなパートナー、シェリーは、こっちが悲しくなるぐらいに顔を歪めた。大粒の涙がぼたぼたと溢れていく。回復能力を使おうとしては、うまくいかずにこうして謝ってくる。
 大丈夫だ、と。言葉を返す気力もなくて、涙ぐらい拭ってやろうかと手を伸ばし、その手が血塗れだという事に気づく。

(何やってんだか……)

 地球が狙われている。
 ガキの頃夢中になって観ていた、特撮ヒーローものみたいなシチュエーション。地球を狙う敵から、魂が繋がった未来人のパートナーと協力して戦うなんて、どんな冗談だ。そう思いながら半信半疑に直面した現実で、死にかけている。警官として色んな事はこなしてきたが、生憎、超能力者や魔法使いとは訓練してない。頼みのパートナーとは連携がとれず、早々に敵からの攻撃を受け、リンクと呼ばれるスーパーマンでいられる時間が終わった。その後は生身に一撃をくらい、無様にも後方で地面に転がっている。
 死なずに済んだのは、偶然にも近くにいた他のリンカーが駆けつけてくれたからだ。

「大丈夫ですかっ……?!」

 戦闘が終わったらしい。ショートカットの女と、女のパートナーであろう、顔に鱗のある青年が駆け寄ってくる。近くに屈んだ女が俺の手を取り、治癒能力を使う。痛みは残っている気がするが、血が止まり、傷口が塞がる。
 戦闘後に治癒能力まで発揮した女は、青い顔で自らのパートナーにもたれ掛かった。リンクが解けたのか、青年の顔から鱗が消えている。

「すまない、助かった。俺は月成宗悟」

「いいえ、間に合って良かったです。私は奏夜心と言います。こちらはパートナーのノアです」

 ノアに支えられながら、笑顔を作る。まだ少女と形容しても差し支えないのだろうか。リンカーとして戦わない彼女は、少しだけ幼く見えた。そんな風に凝視していると、ノアと紹介された青年と目が合う。こちらも、最初の印象より幼く見えた。ノアは軽く会釈をすると、シェリーに視線を移す。涙をながし続けていたシェリーは、とっさに俺の後ろに隠れた。
 
「こいつはシェリエル」

「お二人は、リンカーに目覚めたばかりですか?」

 シェリーに微笑み掛けると、心はそう訊ねてくる。

「ああ。右も左もわからなくてこの様だ」

「慣れるまでは苦労するかと思います。私も、苦労しました」

 ちらりとノアに視線を移し、すぐに俺の方を向く。

「特に、目覚めたばかりが1番危険です。ムンドゥスの同化型や、今のように、異形に目をつけられやすいですから」

 聞きなれない単語に、首を傾げる。そんな俺を見て、心は名刺を取り出す。

「ミヤシロに本部があるのは聞いていますか?」

「ああ。明日向かう。その前に、本職の引き継ぎを片付けてたんだ」

「そうなんですね。ミヤシロにはリンカーが集まっていますから、色々相談できますよ」

「そうか……」

 いまいち実感のわかない事態と、それでも確かに怪我をして、それが治っていることを確認し、脇腹の辺りを擦る。

「あ、あと、良かったらこれ私の携帯番号です。何かのご縁ですし、協力しますよ」

 能力者本部の名刺の裏に、すらすらと番号を書き込む。

「悪いな。あ、じゃあ今度礼する」

「気にしないでください。こういうの、これからよくあると思いますし」

「そうか……あ、俺の番号も渡しとく」

 手帳を破り取り、番号と名前を記入する。ありがとうございます、と告げる心に、頭を下げる。

「こっちの台詞だ。本当に、命拾いした」

「いえ、でも持ちつ持たれつで。私も良く助けてもらってますから」

 そう言ってノアを見る心。なるほど、これがマスターとパートナーというものなのか。

「では、お気をつけて」

「そっちもな」

 心とノアと別れて、夜空を見上げた。傍らのうちのパートナーは、不安げに俺のコートを握った。

「ソーゴ……ごめんなさい」

「……お前が謝る事じゃねーよ」

 コートのポケットを探り、ライターを取り出す。煙草に火を点けると、少しだけ落ち着いた。 

「まだまだこれからだな」

 この、良くわからない現実を受け入れるのも、良くわからないパートナーに慣れるのも。
 自分の身に起きた出来事を振り返る。どこかふわふわとした非現実感を抱きながら、煙を吐き出す。

 見上げた空は、いつもより冷たく感じた。

...fin

prev / next

[ back ]









* top *


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -