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「リオ!ちょっとこっち来いよ、お前の話を聞かせてくれ!」
「なんだか今日はかーいらしいかっこしてんなァ!」

シャンクスさんの下でちびちび甘いお酒を飲んでいたら、わらわらと訪れた船員(クルー)の人達に手を取られ、あれよあれよと言う間に囲まれてしまった。

「すげーよなァ、リオが海に祈ったら海がこうザバーッと持ち上がってさ!あれどうやったんだ?」
「そうそう、それ気になってたんだよ。偶然じゃないだろ?」
「ライに聞いてもよくわかんねェの一点張りでよォ。教えてくれよ!」

次々と投げかけられる質問は全部、あの力に関することで。
あれだけ大勢の前でその力を使ってしまったのだから当然といえば当然なのだが、まだシャンクスさんにもちゃんと説明仕切れていない状態だし、何より璃生自身がこの能力のことを理解していないのだ。

「えっと…ちょっと、待っててもらっても良いですか?」

一言断りを入れて、シャンクスさんの下に戻る。

「あの、シャンクスさん…」
「ん、どうした?リオ」
「さきほどお話したあの、声を聞く力についてなんですけど…」
「あァ、もう疑いようがないな!天が与えた素質だ、誇って良いと思うぞ」
「あ、いえ、そうではなくて…。皆さんの前で使ってしまったので、説明を求められたんですが、その…勝手に伝えちゃダメかな、と思って。私自身あの力のことをよくわかってないんですけど、私の手には余るほどの大きな力だと思うんです。でも使い方がわからないから、ちょっと怖いなという気持ちもあって…」
「………へェ、お前はそう考えるのか」

璃生のたどたどしい主張に、シャンクスさんはおもしろい意見を聞いたとばかりに璃生を見る。
そんな変なことを言ったかな?と周りを見れば、その場にいたベックマンさんやルウさん、ヤソップさんも皆同じような目で璃生を見ていた。

「あ、の…わたし、何か変なこと、言いました…?」
「そうだな…。悪いことじゃあないが、珍しいことは言ってるな」
「珍しいこと、ですか?」

口を開いたのはベックマンさん。おうむ返しに璃生が聞き返すと、一つ頷いて紫煙を揺らす。

「普通は、強大な力を手に入れたばかりの時はそこまで頭がまわらない。手に入れた力に酔って何でもできる気分になる。この海にいる人間は特にな。だが慣れてない力に振り回されることも多いから、そういう時が一番危険なんだ。けどお前は、その心配はしなくても良さそうだな」
「知ってるか?自分の持つ力を、怖いって思って初めて一人前なんだよ。普通はそこまで行くのに数年かかるんだが、お前はもうその段階にいるんだな」

大した新人だ、と笑うのはヤソップさん。
ビビりも褒められることがあったな、と言うのはルウさん。
そんな中で一人、シャンクスさんは黙って璃生を見て何かを考えているようだった。

「………………」
「シャンクスさん?」
「ん、あァ。クルー達への説明だったな…。まァ、隠せることでもないんだが、全容は伏せておいた方がいいな」
「はい、わかりました。なんて、言えば良いですかね…?」
「そうだなァ…」
「てかよォ、俺たちには全容話してくれてもいいんじゃねェか?」
「そうだよお頭ァ、気になってんのは俺らも一緒だぞォ」
「それはおいおいで良いだろう。まずはリオ自身がその力を理解することの方が先だ」
「そう言うけどベックマン、あんただって気になるだろ?」
「俺は手に入れるなら正確な情報が良い。曖昧なままの情報なんて手に入れても、意味がないからな」
「これだよ、つっまんねーな!」
「石頭!」
「そうだそうだ!」

ヤソップさんとルウさんがベックマンさんに突っかかり、ベックマンさんが呆れたようにそれをいなす。
話の路線が…、と思ってそれを見ていると、シャンクスさんが立ち上がって歩き出した。
璃生の方へ右腕を伸ばすと、軽く肩を抱いて一緒に歩くように促す。

「お前ら、リオの力の事で話がある」

船員(クルー)の人たち全員に声が届く位置まで来ると、シャンクスさんは徐(おもむろ)にそう切り出した。

「ライを助け出してくれたリオの行動と、その力については皆が見ていたと思う。喜ばしいことだし、祝ってはしゃぎたい気持ちもわかる。興味を持つのも仕方がないことだ。けど、この海で生きてるお前らなら、わかるはずだ。強大過ぎる力が、どれほどの危険を呼ぶかってことは。リオのこの力について、船外に漏らすことは一切禁ずる。それが守れる奴だけ、リオに質問することを許可しよう。わかったか?」

一拍の沈黙のあと、オォ!と大きな歓声のような返事が返った。

このシャンクスさんの一言は、後にとても大事なものだったのだとわかることになるが、今の璃生には知るはずもないことである。
改めて囲まれて、次々と質問をしてくる船員(クルー)達の対応に追われて、その日の陽は暮れていった。


質問ぜめも一通り落ち着いたところで、璃生はライの姿を探していた。
船員(クルー)達の輪の中にはいなかったように思う。
璃生と同じく端っこで静かに飲めるわけもない立場の筈だが、どこにいるのだろう。

「あ、いた」
「ん?よォ、人気者」
「なにそれェ。別に人気者なわけじゃないよ。珍しいからみんな聞きたがっただけで…」
「お前普段からお前の名前がどれだけ話題に登ってるかわかってねェな」
「それは聞かない方が身のためだと思うので聞きませんっ。それより、怪我はもういいの?」
「フリードにどやされちまった。怪我人は大人しくすっこんでろ!ってな」

ハハッと軽く笑ったライは、表情を変えて真剣な顔をすると璃生に向き直る。

「ありがとな。よく覚えてねェんだけど、お前に助けられたって聞いた」
「うん…無事で良かったよ」
「聞いてもいいか?その…祈りの力、だっけ?」
「うん。祈り、じゃないんだ。私ね、声が聞こえるの」
「声?」
「うん。最初は動物とか植物だけだったんだけど、その、彼らの声?が、海に祈れば助けてくれるって教えてくれたのを思い出して、あとはなんだか必死でお願いしただけ」
「ふゥん…。その声って、今でも聞こえてんの?」
「ううん。船に乗ってからは全然!こないだ海猫とかカモメと話したけど…」
「は?なんだよそれ、カモメェ?」
「う、うん…」

璃生がぎこちなく頷くと、ライはしばらく黙った後俯いて、肩を震わせている。
やっぱり、笑った…。

「もう!笑わないでよっ、私だって少し恥ずかしいんだよ…」
「だってお前…、カモメさんとお話ししてるのって…!ガキかよ…っ」
「そんな言い方してないでしょ?!」
「っく、はは!おもしれー!」
「言ってる私だって恥ずかしいんだからね!」
「カモメと会話ってどうやってするんだよ?クワァクワァって言うのか…っ?」
「それカモメの鳴き声の真似?残念ながら特殊な言葉は話しませーん!」

ふん、と口を尖らせてそっぽを向くとそれがまたライのツボにハマったらしく、しばらくお腹を抱えて笑っていた。明日二日酔いになってしまえ!
軽く呪いをかけながら、でも、笑顔が見れて良かった、と思った。

「元気そうで何よりだよ。じゃぁ私は行くね」
「あーはいはい、あ、リオ!ほんとに、サンキュな」

笑い過ぎて涙目になってるのが残念だが、ライはニッと笑うと、持っていたグラスを軽く持ち上げて乾杯と言う。
璃生も頷いて乾杯を返すと、その場を後にした。

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