WT中編 | ナノ


▼ 03

2階の1番奥の部屋の扉を開けて、適当に鞄をおく。
制服のワイシャツを脱いで皺にならないようにハンガーにかけ、スカートを脱いで下着姿になった。
まるで我がもの顔で振舞っているが、ここは澪の自室ではなく、澪の従兄弟の部屋だ。

タンスの中の男物の服の中に埋まってる女物の黒いTシャツを引っ張り出した。
おばさんがいつも澪の分もここに入れていてくれるのだ。

黒いズボン黒いTシャツと全身真っ黒になった澪は、さて、と部屋を見渡す。
おばさんの言う通り、殺風景だがごちゃごちゃと色々な物の散らばってる部屋の片隅にある椅子に、黒いサロンが無造作にかけられていた。
Tシャツと違って男物女物関係ない物なので慣れた手つきで身につけると、澪は従兄弟の部屋を後にした。

1Fに降りて、洗面所から白い手ぬぐいを1枚借りる。
手首につけていたシュシュで髪をさっと結ぶと、手ぬぐいで頭を覆った。

「おばさん、手ぬぐい借りたよ〜」
「はいよー!そのまま洗濯機入れちゃっていいからね!」
「はーい」

店内を見れば、先程より新規のお客さんが2〜3組増えている。
澪はホールに出るとお客さんの様子を伺って、注文の決まってそうな席に足を運んだ。



時折お客さんの代わりにお好み焼きを焼いたり、常連のお客さんと会話をしたりして時は素早く過ぎて行った。

「ありがとうございましたー!」
「澪ちゃん、お疲れ様!また来るよ!」
「はい!お待ちしてます!」

常連のおじさんを見送ると、女将さんと親父さんがニコニコと笑って澪を見ていた。

「どうしたの?おばさん」
「いやね、澪ちゃんがいると売上が上がってる気がするのよ。立派なうちの看板娘ね!」
「え?!そうかなあ…多分お兄(にい)の方が人を呼んでると思うけど」
「あの子も接客は良いけど、女の子はやっぱり別よ〜このままうちに嫁いでくれてもいいのよ?そしたら、名実ともにうちの看板娘じゃない!」
「嫁ぐって…気が早いよ。私まだ18だよ?」
「もちろん今すぐにとは言わないわよ〜あ、でもどっちに嫁ぐかは澪ちゃんが選んでいいわよ!どっちでもお好きな方を持ってってちょうだいな」
「持ってくって……」

物じゃないんだから、と言いかけたところで扉が開く音が聞こえた澪は振り返った。

「いらっしゃいませ!」

照れ隠しも含めて張り切って笑顔を浮かべてお客さんを迎え入れる。
しかし、扉をくぐって入ってきたのは澪がよく知る顔だった。

「ま、雅人?!お、かえり……」

タイミング的に少し気まずかったが、彼特有の能力で悟られないように笑顔を浮かべる。
一瞬抱いた、「驚愕」という感情は読み取られてしまっただろうが、多分その理由までは悟られていない。

「?おう、…ただいま」
「もう任務終わったんだ?今日は早いんだね」

お疲れ様、と声をかけようとした直後、従兄弟の背後に人がいることに気付いた。

お客さんかと顔を上げ、澪は驚きに目を見開いた。
あんぐりと口を開けた澪がその人物の名前を呼ぶ前に、その人物が澪の名前を呟く。

「朝霞…?」

(…わ、私の名前、知ってたの?!)

そのことにも驚きを覚えるが、それ以上に彼がここにいることの驚きが勝っていた。

「あ、あら…あら……あらふねくん?!」
「おう」
「な、ななな、なんで…ここに……ま、雅人、どういうこと?!」

困惑した澪は、荒船から視線を外し、従兄弟に詰め寄った。
確かに雅人も荒船くんも同じボーダーに所属しているだろうが、同い年とは言え、学校が違う。
ボーダーという組織はそれほど狭い世界なのだろうか。

「そりゃこっちのセリフだ」
「わた、わた…わたしは…わたしは同じ!クラス!ま、雅人は?!」
「あー……、ボーダーの……ダチ」
「そ、そうなんだ…」

ボーダーの…まで言ってその先は少し迷っていたようだが、雅人は少し照れ臭そうにしながらも、はっきりと友達だと告げた。
なんてこった、世界とはこんなにも狭かった。

「席空いてるか?」
「え、あ、うん、空いてるよ。何がいい?」
「なんでも適当に4玉。手空いてるなら焼くの手伝え」
「よ、4玉?!2人なのに?!」
「俺もこいつも腹減ってんだよ」
「わ、わかった…」

同い年でも男子と女子の胃袋の差だろうか…。
それにしても、適当に。適当にって、なんだろ。何を持ってくれば…
澪は2人を席に通しながら、何の種を持っていくのか悩んだ。

(雅人だけなら本当に適当でいいかもしれないけど、荒船くんもいるし。好きなのとかないのかな…聞きたいけど、ど、どうしよう…)「おい荒船」

悶々と考えていると、席の方から雅人の声が聞こえた。なんとなく予感がして振り返ると、

「澪が、お前が何食いたいのか知りてぇって「雅人?!受信したとしても口に出さないでっていつも言ってるじゃん!!!」
「まどろっこしいんだよ」

嫌な予感は当たり、雅人は澪の心を読んでその内容を口に出してしまった。
こういうところは気遣いができないデリカシーがない男である。

「あー、そうだな、豚たま。あとチーズ入ってるやつくれ。カゲは?」
「なんでもいい」
「んじゃ海鮮と牛すじ」

荒船はあっという間に澪の悩みを解決してくれた。きっとお好み焼きを食べ慣れているのだろう。

(スマートだなあ…かっこいい)

思わず、雅人の前であるということを忘れて感情に正直になってしまった。
雅人の肩がピクッと動く。
その動きで澪はハッと我に帰り、慌ててその場を離れた。



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