WT中編 | ナノ


▼ 02

澪には生まれつき、不思議な力が備わっていた。
人の感情が、色や形で視認することができるのだ。
その事に気付いたのは、幼稚園の時だった。

幼馴染みでいとこの男の子に向けられる赤い炎のようなもやもやに、恐怖を覚えた。

"まーくんに変なものむけないで!

幼かった当時は、その発言が更に波紋を生むなんて気付いてなかった。
その翌日からは自分も黒いもやもやを向けられた。
体にまとわりつくそれを、いやいや!、とはたいても離れていってくれない。
それどころかその行動も、更に黒いもやを増加させるだけのものだった。

"澪ちゃん、へんなの"
"うそつきだよ、なにもないのにあるなんていってさ"
"澪ちゃん、どうしたの?何もついてないわよ?"

初めは庇ってくれていた先生も、やがて子どもと同じような黒いもやを澪に向けてきた。

澪はこっそり隠れて泣き、やがて周りの人間に理解されないことを悟ると、誰にも理解を求めなくなった。

そうすると不思議と、色のついたもやを向けられることは減った。
色のついたもやが、やがて感情に起因するものだと気付いたのは、小学校の高学年の時だった。



「澪、何ぼーっとしてんの?」
「っえ?あ、ごめん、なんだっけ」

窓に写った自分の顔の形をぼんやり眺めていたら声をかけられていたことに気づかなかった。
へらりと笑えば、呆れたように苦笑した友達から、白い綿のようなもこもこが溢れ出して、澪の体を包み込んだ。
これは、心配や庇護といった母性のような感情だ。

「4限終わったよ。お昼どうする?上行く?」
「うん、今日天気いいし、屋上にしよ」
「おっけー、場所取りよろしく!購買行ってくるね」
「はーい」

早足で教室を出ていく友達が、わざわざ澪を起こしてくれた(寝ていた訳では無い)のだと気付くと、自分からオレンジ色のもやもやが友達に向かっていくのが見えた。感謝の感情だ。

この能力の2番目に困ったことは、こうして自分の気持ちもあけすけに見えてしまうことだ。
友達と喧嘩した時や、イライラしている時は本当に酷い。
自分から伸びるベクトルの黒に更にイライラしてしまう。

わずかに恥ずかしさを覚えながら、鞄からお弁当を取り出した澪も、教室の出口へと向かった。



「今日図書館で勉強していこうと思うんだけど、澪どうする?」
「あ、私今日バイト入ってるんだ、ごめん…」
「あれ、珍しいね、いつも月曜日って休みじゃなかったっけ?金土日入ってるから」
「うん、いつも月曜日に入ってる人が急遽予定入ったってさっき連絡来てさ、今日入る代わりに今度の金曜日休みなんだ〜」
「え、ホント!じゃあ金曜日前に話したカフェ行かない?そこ月曜日定休日だから誘えなかったんだよね」
「うん!いつもごめんね〜」
「いいよ、私だって週3で塾あるし」

お互い様!と言ってくれる友達と校門前で分かれて、通い慣れた道を1人歩く。
不意に、遠くでサイレンが聞こえた気がして何気なく警戒区域の方角を見やると、何故か4限の前に早退したクラスメイトのことを思い出した。

(そういえば、荒船くんお腹空いてないのかな…)

どのような任務体制なのかははっきりと知らないが、緊急に呼び出されたと言っていたからきっと忙しく働いているだろう。

「そういえばアイツも今日任務だったっけ。学校違うから最近は全然会ってないなあ」

1人ごちると、いつの間にか見慣れたバイト先ののれんが目に入った。

「おはようございまーす」

挨拶をしながらのれんを潜ると、店内の客は疎らだった。
月曜日の夕方なんてこんなもんだ。

「澪ちゃん、おはよう!ごめんね、3連勤頑張ってくれたのに、あのバカ息子が…」
「いいよ〜、私もテスト前とか代わってもらってるし、お互い様だって」
「そう?悪いわね…月曜日だしそんなに入らないと思うけど、よろしくね!」
「はーい。あ、今日サロン持ってきてないんだけど、貸してもらえたりする?」
「あの子の使っていいわよ!多分椅子にでもかけてると思うから」

そう言いながら、女将さんはお客さんに呼ばれてレジに入ったので澪は無言で台所の奥にある階段を登った。



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