そのご


痛いのがいいとか
束縛がいいとか
苦しいのがいいとか
キツいのがいいとか

どれも私には理解が出来ないんだけれど、目の前のあいつはそれらでよがって喜んでしまう。

見てると悲しくなってくる。

でも、それには理由があったのだ。












―緊縛☆アイスプレイ―そのご
お風呂プレイとか、そ、そんな!














KAITOのパッケージを手にとる。
そもそも、これ、入手した方法がネットオークションだった。
1円スタートだったのを不思議に思いながら、5000円で落札した。
そのとき、欲しい気持ちばかりが優先して、おかしいことにに気づかなかったのだが。
だって普通にインストールできたし、更に、今まで書いてた小説の設定そのままに実体化しちゃった訳だしさ。
嬉しいことばかりで浮かれて当然!
ところが…格安物件とかでよくある“いわく付き”とかいうやつだったんだなぁ…

「ん、なんですか?」

今日のカイトは機嫌が良さそうだ。
愛らしい笑みを向けて、じゃらりと音のするものをつけた手で、私の手を握ってきた。
そして握られた手もじゃらりと音をたてる。
じゃらりじゃらりじゃらり。
え、じゃらりって何だ?…って思うよねーですよねーあははーうふふー☆

「▼“いわく付き”は『手錠拘束』という技を覚えた」
「え、▼ってなんですかー?」
「新しくフラグが立ちましたよーとか、クリックしてページをめくってくださーいとか、俺の人生▼(急降下)だぜ!とか」
「ふーん…」
「自分で聞いときながら興味無さそうな返事するなし」
「で、マスター。俺、そろそろお風呂入りたいんですけど…」
「おま、生意気な!じゃあさっさと手錠外せし!」
「うーん、それが残念なことに鍵が見つからないんですよ。縄と一緒に買ったから、同じ袋に入れておいたはずなのに…」
「……………は?」
「あ、でも、俺は外さなくてもいいと思ってるんですよ。だって、その方が俺、腕だけでも縛られてる感覚に満たされて幸せなので」
「……………え?」
「これでいればマスターだって、俺が縛ってって言う回数が少なくなってきっとお得ですし…」
「お得ってなにがだ!」
「んーとりあえず何でもいいですから、お風呂入りましょうお風呂」
「おいおい待てよ話を聞けっ!!」

カイトは手錠のかかる手で、同じく手錠のかかっている私の手を引いた。
引っ張り返そうとしたが、機嫌の良さそうな顔を見たら、抵抗するのも馬鹿らしくなって。腹をたてるとも、気持ち悪いととも思わなかった。
じゃらりじゃらり。
鎖がぶつかって音をたてる。
ここまでくると、ぶらぶらと揺れているそれのように、なすがままにされていよう。
お風呂の脱衣所にたどり着く。カイトはドアをしめて、狭いスペースに2人並んだ。

「…入るの?」
「当然です」
「じゃあ私、ここで手だけ出して待ってるから、先に入ってきな」

そういって私はカイトに背を向けた。
ごめんなさい!さっきと思ったことが全く違ってる!
でも、実際風呂を目の前にするとやっぱり恥ずかしいんだよバカッ!
湯船に2人で浸かっているところ想像し…ないないないないないないないないないないない!!!!!
お、落ち着け私。これは当然のことだからな。一応これでも相手は異性だからな。実体化したデータとはいえ。
何も全てカイトと合わせなくていいんだぞ…また首吊りとかして病まれるのも困るけど、その前に自分があってこその相手なんだぞ!
そうそう、亀甲縛りとかなんとか言ってるけどね、ある程度段階をクリアしてこそ、できることなんだと認識を改めてほしいわ!
しかもこの手錠!…………手錠……手錠………てじょう…………。

「………」

カイトと顔をあわせず、風呂のドアをじっと見つめる。
うぅ、なんだか急に空気が重くなった気がするのは気のせい?
この次に私はどう出ればいいの?教えてGoogle先生!

「………ごめんなさい………」
「……ん?」
「俺、やっぱりどうしたらいいのかわからなくて…」
「…………」
「どうしたら“マスター”が喜んでくれるのかが…」
「……………」

“マスター”という響きが、なんか切ない。
ふと気づいたら私はカイトをガン見してたんだけど、カイトが見ているのは…目線は私に向いてるんだけど、全然違う方を見てる。
きっと前のマスターを見てるんだ。

「あーあーなんか嫉妬しちゃうなー」
「…?」
「私が喜ぶことはこんなことじゃないのに、君はすぐこういうことしちゃうんだもんな。前のマスターがそんなに好きだったわけ?」
「………え、あっ」
「いわく付きでもなんでも、私の前に実体化して現れたカイトは、君しか知らないのになぁ…ずるいなぁ…」
「………………」

かなり意地悪な言い方だ。
でも知らない。気にしてやんない。
前のマスターにそんなに執着してるなら、私、こいつの前で脱いでやってもいい。先に湯船に飛び込んでやってやる。
その中で縛ってやってもいい、いや私が縛られて喘いでやる。
もうそれこそ前のマスターの存在など忘れてしまえる大胆なこといっぱいいっぱい。もう死んじゃうんじゃないかと思うくらい、喘いで叫んで縛って苦しんで傷つけて痛くして壊して苦しんで壊して泣いて壊して叫んで壊して壊して壊して壊して……壊し……え、あれ?

「―――マスター!」
「え?あ、あるえ??」

視界がぼやけていた。
湯気が目に染みたとか。きっとそうだ、そうに違いない。
どこかに出てきた、もやもやとした黒いものを必死に隠す。
気持ち悪い。気持ち悪いよ。吐き出したい。
うぅん、気のせいだ。きっと今朝食べた卵かけご飯の卵が古かったから、なんとなくそんな気分になっただけだ。

「卵かけご飯………」
「…マスター?」
「犯人は卵かけご飯!」
「???」
「きっとカイトが前のマスターを思っちゃうのは、今朝卵かけご飯を食べたせいだよ!」
「…そう、な…」

キッとカイトを睨んだら、分からない様子で。でも気圧されたようにうんうんと頷いた。

「卵かけご飯…なんですね」

きっときっと、縛られたくなっちゃうのも、手錠で遊んじゃうのも、お風呂の前で二人で立ち尽くしちゃうのも、過去を忘れられないのも、卵かけご飯のせいだ。
だってあれ、醤油かけすぎるとしょっぱいし。そうだろ?亀甲マン。
つつつと流れてきたしょっぱい水をぺろりとしながら、訳の分からないことを考えていた。
…しばらくして。

「………お風呂、どうしますか?」

恐る恐るカイトが口を開いた。

「入れないじゃない。手錠で服が脱げない」
「…あ」

私は当然の答えを返した。
そしてしばらく私たちは脱衣場で突っ立ていた。

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