「なぁ、もし俺が…手前のこと好きだって言ったらどうする?」
正に青天の霹靂。
夜になり、人通りの少なくなった池袋の裏通りで静雄に見つけられてしまった臨也。
何時もの如く逃げようとしていたのだが、怒声では無く、出会ってから数年の内で下手したら今迄一度も掛けられたことが無いのではないかと言うくらい落ち着いた声を掛けられ、その足も止まる。
対面して、凪いだ瞳のままの静雄に告げられた言葉が一瞬理解出来ず言葉を発するのを忘れてマジマジと静雄の顔を眺める。
何時もの静雄ならそうされれば何か手近の物を投げ飛ばしてきそうなものだが、今はただ、本当に名前が表すとおり静かに臨也の正面で突っ立って問いの答えを待っていた。
こんなに自分の口は重かっただろうか。
そう思えるぐらいに臨也の口からは言葉にならなかった音が洩れる。
静雄の為す事一つに十程の言葉で馬鹿にするのが通常なのに、何時もと違う何かの所為でそれが出来ないで居る。
暫く膠着状態の二人だったが臨也が無理矢理笑みを作り、何時もの調子で話しだす事で空気が動く。
「珍しく静かで、何を言うかと思えば…
とうとう頭涌いちゃったの?シズちゃんが俺を好きとか…凄く笑えない冗談だ。
その力の所為で女の子と関係を持ったこと無いの知ってるけど、実はそれだけじゃなくて本当は男が好きだとか?まぁ、人の趣味に口出しする気は無いけど…俺は女の子が好きだしー。
それでも俺とか有り得ないでしょう?本当シズちゃんはユーモラスのかけらも無いね。
ほら見てよ、気持ち悪くてて鳥肌立った!」
何時もみたく、馬鹿にするような口調でベラベラと喋ってみたのに、静雄が突っ掛ってこない。
調子が狂う。
どうして無表情なままなんだ。
まるで…
まるで、その事で頭イッパイって言ってるみたいじゃないか。
そう考えると心臓の辺りがザワザワする気がして、臨也は服の上から其処を掴む。
すると、今迄凪いだ瞳で臨也を見ていた静雄は一旦瞼を閉じると体ごと臨也から視線を外す。
一度大きく煙草を吸い込んで、紫煙を吐き出すと小さく「そうだな」と呟いて完全に背中を向ける。
「あ…ちょっと、シズちゃん!?」
「今日は見逃してやる、池袋には来るんじゃねぇ」
見逃すって何だ、何時もなら追いかけてきてくるのはソッチの癖に。
そう思いながら呼び掛けても静雄が振り返る事は無く、臨也をその場に残し街灯りの中へ消えていった。
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