肉感的日常


9.肉感的日常

「だぁー…ねっむ」


やっと休みだ。半休しかないけどゆっくり休める。寝る。


「お前、さっきあの子に何言ったの?」

「別に。俺の話をしただけだ」

「ふーん」


それだけで泣くなんてないと思う。こいつは話のネタが尽きない。

中学の頃から強個性とタフネスさ故に注目されていた。体育祭だって3年間トップ3から外れていない。敵に拉致られて戦場の中心にいた。仮免は落ちるけど挫折を知って強くなったし…

思い出されるのは高校の時ばっかりだけどまぁまぁ覚えている。高校時代だけだったら猪突猛進問題児にも負けねぇな。


「お前もちゃんとヒーローなんだな。敵に単騎突入するバカだけど」

「黙れよ」


頭を掴まれてベッドに沈められる。シャツがシワシワになりそうだから早く脱ぎたいんだけど。


「お前も大概バカだろ。長年顔隠してきたくせにあっさり晒しやがって。マスクくらいしとけば良かっただろーが」

「もうそれは悟ったからいいんだよ…」


顔を晒したことによってメディアからの仕事の依頼が来るようになった。タレントっぽい活動もしている上鳴に話聞いてみたけど「メス顔だから面白くなくても大丈夫」だったからもう相談はしない。


「お前とのことも結構ニュースになってたよな」

「不仲説があったが……真逆だわ」


真逆も真逆。俺の髪の毛をかき上げる手が暖かくて瞼は完全に落ちた。

着替えずに寝転んだから確実にシャツとスラックスはアイロン行きだ。3徹からの仮眠2時間ではもう考える力と動く気力はない。


「悪ぃ、俺寝る……」


休みの日に俺に会いに来てくれたのに申し訳ないが限界だ。服を脱がせる感覚がある。シワになるからハンガーにかけてくれてんのかな。相変わらずみみっちぃというかおかん気質というか世話焼きというか。


「目が覚めたら…相手、するから」

「わーったからはよ寝ろ」

「んー……、」


 * 


間延びした返事は寝息に変わる。シャツをとりあえず脱がせて架ける。ベルトもしたまんまとか絶対寝にくいだろ。親切心でしてやってるってのに、いけないことをしてる気分になる。

朝ここについたときも死んだ顔で寝てやがった。そんときより顔色はいい気はする。

会ったらまずこの前のことで殴ってやろうと思ったが、この顔を見てしまえばそんなことはできなかった。人の気も知らねぇで寝てんじゃねぇよ、クソが。

そう思いながらもこの綺麗な寝顔を見ていると安心する。やっと戻ってきたんだ。触れて確かめると顔は少し冷たい。

今はこの空間だけで腹いっぱいだ。コイツの傍にいると個性か何かの要素で自分が凪いでいくのがわかる。

俺もねみぃ。隣に寝転び毛布の上から抱き締める。目の前にある長ったらしい水色の髪の毛を掻き分けてうなじにキスをした。

昼飯こいつ食べてねぇよな。起きたら作ってやるわ、とか思う辺り、自分も尽くすようになった。

それもコイツだけだがな。


 * 


何でコイツいんの。目が覚めたときはそう思ったけど…休みを利用して会いに来てくれたことを思い出す。


「お、はよ?」

「ん」


俺が寝ている顔をガン見している風な爆豪は眠そうではない。このパターンは一緒におねんねパターンだろうが。

っは、服!…インナーちゃんと着てる。シャツ脱がせて架けてくれたんだった。ありがとう。

っは、ベルト!外されてるけど何かされた様子はない。パンツも変わりなし。セーフ。


「4時間くらい?結構寝たな。せっかく来てくれたのに」

「会いたくて来ただけだからいいつってんだろ。それにお前の寝顔は好きだからな」


素直になった爆豪はとことん質が悪い。淡く微笑むなんてお前キャラじゃねぇだろ。ガチ勢なフォロワーが見たら血涙流して拒否しそう。


「お、おふ」

「飯食うか。冷蔵庫のモン適当に使った」


良い匂いがすると思ったらケチャップの焦げた匂いがする。幾分かスッキリした頭を持ち上げベッドから降りるとキッチンに向かう。

そこにあるのはケチャップライス。これって…


「まさかッ!!」

「今日の卵の気分は」

「タンポポでオナシャス!!たんぽぽ先輩!!」


いてっ、タンポポ頭にどつかれる。

学生時代の寮生活で爆豪にご飯を作ってもらうことは珍しくなかった。俺も自炊はできる方だし味も悪くはない。だが才能マンの足元には及ばず、しばしばねだっていた。

卵もふわとろだったり硬めだったり色々してくれたんだけど、それを忘れずにこうしてまたやってくれることに幸福を感じる。

ここ数日幸せ感じすぎてそのうち死んじゃうんじゃねぇかな。


「んふふ、爆豪のオムライスむっちゃ好き」

「知っとるわ。気持ちわりぃ顔してねぇで座って待ってろ」


普通のフライパンではタンポポオムレツを作るのは難しいのに、それをいとも簡単にやってみせる彼の才能に脱帽する。

ステイを言い渡されたため大人しく待つ。教員寮は集合住宅みたいな感じで部屋の中にキッチンも風呂もトイレもある。

たんぽぽ頭は昔とあまり変わらないが、全体的に短くなりサイドとバックが刈り上げられていて大人の男らしさを感じる。背中もやっぱり広く逞しい。

俺はどう頑張ったってクラスの中じゃ細い方だったし、ヒョロ長の瀬呂と競い合っていたっけな。

身長の差ついたとは思ったけど、爆豪ってプロになってから大分伸びたんじゃねぇの?


「おらよ」

「ふわ〜〜!!爆豪が割って!俺動画撮るから!!」


クオリティがさらに上がったそれはもはや芸術品。興奮した俺の注文に小さくため息をつきながらもフワフワのオムレツにナイフを通す。


「うわぁ…タンポポだ…むっちゃ綺麗、すげー」


軽くナイフを通しただけなのに左右に割れるそれからは半熟が流れた。尊敬の眼差しで爆豪を見るとドヤ顔していた。それはいらんわ。


「いっただきます」

「おぅ、食え食え」


爆豪の分はなく完全俺用で準備してくれていたみたいだ。優しすぎて明日は雷を伴う暴風雨だと予想する。コーヒーと茶菓子を手元に用意した爆豪は俺を見て何か楽しいのか?


「お前が興奮すんの珍しいな」

「んー、久々のタンポポオムライスで少なくともテンション上がるよ。お前もいるしな」


少し赤くなった頬を満足げに眺める。


「お前、身長いくつになった?」

「185.4」

「でっか、10cmも差があんの?」


そりゃデカイと感じるはずだ。俺は高校で身長はほぼ止まってしまったため羨ましく感じる。俺だって小さい方ではないのに。ヤオモモとそんなに変わらないから弄られるのも、もう少し大きければ違ったのかな。


「旨かった、ごちそうさま」


爆豪特性のオムライスを食べ終わると時刻は夕方の5時半になっていた。明日は仕事であろう彼はもう帰るらしい。爆豪の晩飯は俺が作ろうと思ったのに、残念だ。


「オムライスと来てくれたお礼」


背伸びしてキスをするとちょうど良い高さになる。この前キスしたときはがっついてたからそんなに判らなかったけど、この身長差はいいな。

キョトンとする爆豪は可愛い。キスを恥じらうほど子供じゃないし、初々しさもない。彼と久しくしたキスでさえ羞恥より懐古が勝った。

至近距離で爆豪の顔を見るのは少しドキドキするけどこれは慣れないことなのは知ってる。クソ、イケメンめ。


「やめた」

「?」

「抱く」

「!!?あ"ッ」


後頭部の髪の毛を引っ張られ呼吸を奪うキス。ほぼ真上を向かされて首が痛いって。彼の唇は露になった首に軽く吸い付いてくる。

抱くってなんだよ、今帰ろうとしてたじゃんか。それに会えただけで幸せっていう雰囲気だったろ!

髪の毛何本か逝ったわ!それとなにか?このVネックインナーは首に噛みつきやすいってか?もう着ねぇ!

首がくすぐったくてゾワゾワする。押し返そうにも素の力じゃ敵うわけもなくなし崩しにその唇を受け入れるしかない。


「帰ん、だろ…ッ」

「はぁ…煽ったのが悪ぃンだよクソ凪」


鎖骨までたどり着いたら舐めあげて顔が上に戻ってくる。完全に発情してる。彼が持っていた荷物はいつの間にか床の上で、その手はバッグの代わりに腹に触れる。


「いやいやいやいやいや、帰れって!また会えるんだからさ!!」

「お前の方が会う時間も休みもないくせになに言ってんだよ」

「!?、そう、だけど…っちょ待!!?!」


ベッドに押し倒されるなんて初めてかもしれない……いや、発情した女にならあるけど。


「俺ぁ、あん時みてぇに我慢して先伸ばしにすんのが嫌なんだよ。伸ばしたら逃げるだろーが。ンなの待ってられッかよ」


我慢、させてたのか。俺は邪魔しないようにと思っていたのに、圧倒的に言葉が足りないせいだな。二人とも成長して本音を言うことを覚えた。強くなることは我慢をすることじゃない。


「お、お願い……風呂は、行かせて」

「!」

「ヤるんだろ…だったらそこ退けよ」

「退くッかよ」


俺のまだふにゃふにゃなチンコをズボンの上から鷲掴んで勃たせようとする。待てができない短気な性格。


「いや!色々準備しないとムリ!死んじゃう!主に俺の肛門が!」


だって爆豪以外後ろ使ったことことないし、女にアナル開発されるようなアブノーマルなプレイもしたことない。ノーマルなセックス。


「じゃあ準備手伝ってやるよ」


俺を姫抱きにするコイツは至極悪い顔をしていた。すっごくゾワゾワする。


【肉感的】

性欲を刺激するさま。
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