ヒーロー基礎学、USJ。
救助演習はヒーローの醍醐味である。
俺の個性はこの演習に不向きではあるが、勝って助けるだけでなく救けて勝つヒーローとなるためには必要なことだ。
そのことは重々承知ではあるがいかんせん素行不良のため成績は中の上といったところ。
この演習で抜群の成績を残しているのは水難ではカエル女、倒壊エリアではパワー系と丸顔。
一番ムカつくのは、オールマイティーに個性を遺憾なく発揮するポニーテールと…クソスクエア。
「ふぅ……このエリアの救出は終了。サルベージは私がするわ」
「分かった!あ、でも次土砂ゾーンだったら#環心#が行くほうが良いな。俺が運ぶ!」
「了解」
醤油顔とシオンと俺の3人一組の救助演習で、いまだ成果を上げられないのは酷くもどかしい。
「勝くん?はぁ……ボーっとしないで、演習中よ」
「ッわーっとるわ」
土砂ゾーンは足をとられて歩きにくい。この中にいるであろう救助者をシオンが探し出す。探索できるチームは比較的簡単に救出活動へと移れる。
「はっ、んッねぇ勝くん!木と木でできた隙間に埋まってるから掘り出すよ」
そんな体力なかったかよ。朝一緒に走っていて、体力的にはクラスでも上の方だと思ったが…コスチュームで動き辛いんか。
「右側掘ったら崩れるから…ん、ここ掘ろう」
「……あぁ」
本日最後の水難ゾーン。
「ここは俺が行く」
「よっしゃ頼んだ。俺のテープ繋げとき」
「防水無線で指示出すから、よろしくね。返事は3回引っ張ったらYESでそれ以外はNOってことで…行ってらっしゃい」
籠手と手榴弾を外しコスチュームのまま水の中に入る。リアルを想定しているため靴も履いているが水が入って気持ち悪ぃ。
簡易酸素とゴーグルを着け水中へと潜る。
『2時の方向、救助者1。っふぅ……酸素量が少ないからすぐにエアーを』
俺に繋がっていたテープを3回引っ張り了解の合図。そして救助者を見つけあらかじめ用意していた酸素とロープを結びつけ引き上げる。
『勝、くん。もういないから…上がって』
通信機から聞こえる声が集中を削ぐ。
「バクゴーお疲れ、反省会の前に着替えてこいよ」
「コイツも連れてく」
「「へっ?」」
「またぶっ倒れてェんか」
「あっ、いや…………何でわかるかなぁ、」
無理矢理運ばれることは避けたかったのか、俺の言わんとしていることを察して更衣室へと向かう。
たぶんコイツは体調が悪い。その状態で演習して個性を使ってりゃ悪化するに決まっている。
個性で自分の体調を隅々まで把握できるくせに…いや、把握できるからこそまだできると無理をしちまう。
男子更衣室で濡れたコスチュームを着替えながら秒で乾く専用乾燥機に投げ込む。
俺も濡れたままの状態だったら風邪をひきかねない。体調を管理するのもヒーローの仕事であるのは間違いないだろうが、人間なんだから休みは必要だ。
着替え終わり外で待ってみるが…遅ぇ。
「着替えたか?」
『…』
「…おい、シオン?」
『…』
「……開けるぞ、…ったく」
女子更衣室の扉を開けるなんて、と通常では体験し得ない行為だ。だが、返事も衣擦れの音も無いなんて…
まさかぶっ倒れてんじゃねぇだろうな。そう思い中に入ると、案の定力尽きて床に座り込んでいるシオンがいた。
コスチュームは全部脱いでいるが、制服は引っ掻けた状態でボタンも閉まっていないしスカートのチャックも上げていない。
ひたすらに目の毒だ。
「おい、シオン起きろ。部屋まで送ってやっから」
「、、ん”……ね、勝くん……?」
「ンだよ」
「ちょっとお願い、っふ…というか頼って良い?部屋まで、運んでほしいなぁって」
「わかった」
体温が高くしゃべり方もいつもみたいに覇気も嫌味もない。前回ぶっ倒れて半分野郎に運ばれた時、俺が頼れと言ったことを今実践している。
横抱きで運ぼうと思ったがこのままじゃ外出れねぇよな…ボタンに手をかけ無心で閉める。コイツは病人で介護してるだけだ。レースのキャミソールに隠された白い肌なんて見えてねぇ。
「…別にしがみつかんでも落とさねぇよ」
「……ん」
シオンに負荷がかからないように横抱きにして寮へと向かう。コスチュームのケースは持てないが誰かが運んでくれるだろう。
授業も途中だったが前科持ちのコイツを運んだってきっと醤油顔も察して先生に一言入れてるだろうし問題はない。
無遠慮にシオンの部屋に入りベッドへ寝かしつける。うっすら汗をかいていて髪の毛が額にくっついている。
「薬は」
「、ドレッサーの一番、した。寝る前に着替える…シワ、になる」
「おら、薬。オイ……まじかよ」
薬を手渡そうとしたら制服を脱ぎ始めるとか、コイツ俺がいるのわかっとんのか?あ、そこで力尽きるんじゃねぇッ。
ベッドに座り第一ボタンだけ外れた状態。腕を上げることすら億劫らしく、体調の悪化を知らせる。
「勝くん…手伝って、」
「あ”???」
「着替える………脱がせて」
「?????」
疑問符が頭を占めている。今コイツは俺に服を脱がせろと言っているのか?
頭の整理ができない状態で一応要望通りに近づきベッドに座るシオンの服に手をかける。
いや、これはどういう状況なんだ。俺がシオンを脱がせる。は、マジで意味わかんね。
「着替え、たい」
「っくそが」
たぶん熱で頭がおかしくなってんだ。そういえば前回熱でぶっ倒れたときもおかしな行動していた。気にするな、疚しいことをしているわけじゃない。着替えさせてるだけ。
制服のボタンに触れる手が緊張で震えているのがわかった。更衣室で閉めたものを今度は外していく。
「ん、、っふぅ」
「〜〜〜ッ」
クソがッ!!!
頭が俺の肩に傾れかかってきた。耳元でため息ついてんじゃねぇよ。そのため息のせいで妙に演習集中できなかったんだからよ!
「ほんとさっさ寝ろや!!!!!」
ボタンを外しクローゼットから短パンとTシャツを投げつける。布団をかぶりモゾモゾとその下で着替えているようだ。
「あり、がとー」
「熱の度にこれだったら俺が色々ともたねェ」
「??」
「いーからさっさと寝ろ」
薬も飲ませた。着替えも済ませた。あとはコイツが寝て回復するのを待つだけだ。
「ねぇ、勝くん?」
「ンだよ」
「あの時…あんまり、熱なかったんだけどさ…なんで、体調…ンッ、悪いって気づいたの……?」
「そのしゃべり方とため息の数」
体調が悪いと喋るスピードが1割減して間もよく空くようになる。そしてため息。自覚はないのかもしれないが、演習中はむちゃくちゃしてた。
だから、無線で耳元で聞こえるため息は…勘弁してほしかった。
「そっか……ありがと」
「頼れと言ったのは俺だ。お前一人ぐらい看病できるわ」
「じゃあ…さぁ、勝くんがキツいときは看病、するから……ね」
「ん、キチぃんなら寝ろよ」
「あと、手」
また俺の手を頬に添えて満足気に寝ようとする。本当に、マジで勘弁してくれ。早く部屋から出たかったのに。
頼れと言ったのは俺だ。確かに俺だが。
振り回されて感情がコントロールできていない節はあると思う。
でも、
「……ぐーすか寝やがって」
頬を撫で回しても起きはしない。安心しきったこの表情は嫌いじゃない。
サラサラしてなおかつ柔らかいコイツの髪を撫でるだけで甘い香りが漂ってきた。
俺のこと甘いにおいとか言うくせしてお前も十分甘いわぼけ。
今度からはため息が増えたら速攻ベッドに押し込んでやる。思考回路が狂った姿は見られたくないだろうし見せたくもない。
クラスメイトに囃し立てられて爆破するまであと2時間39分。
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