君ってやつは

大学入学して割りとすぐのことだった。

自炊をできるように鍛えられて美味しいご飯の炊き方から鳥むね肉の調理の仕方をマスターした頃。夕飯は無性に


「おかえりー!ん〜」

「気分じゃない」


夜遅くに帰ってきた澪にお帰りのチューをしようとすれば触れる前に拒否されてしまった。抱き着こうとしたままの格好で停止した俺の脇を通りすぎて着替えるために寝室に入っていく。

いつものキリっとした表情はなくって顔色は心なしか土気色のようだ。今日の夕飯は俺が作った少し焦げた男飯だから澪にはちょっと重いかもしれないなぁと様子を見に向かえば部屋着に着替えて活動停止した彼女がベッドへと倒れる寸前だった。

その腕を掴まえて後ろから抱え込むようにベッドの縁に背中を預けた。


「おつかれ?」

「うん…疲れた。のと、お腹痛い」

「せーり痛か。薬持ってこようか?」

「もう飲んでるからいい」

「そっか。メイクは落として寝なきゃダメだろ。せっかく綺麗に手入れしてるのに」

「めんどくさい」


しょぼくれてしまった俺みたいに元気のない澪は稀で俺に全体重を預けてスライムみたいに溶けてしまっている。棘の感じる言葉も痛みや疲れのせいだろうとお腹に重みがかからないように触れて暖める。

体温が高い俺の手のひらは天然湯タンポだから姉ちゃんにしたことがあった。特別嫌がる様子はなかったから大丈夫かなと首筋に鼻を寄せる。これも大丈夫みたい。

ベッドサイドにも置いてある澪のメイク落としを腕を精一杯伸ばして指先で掴む。緩慢な動きでメイクを落とした彼女は少しだけ幼い顔を晒した。


「ごはん食べる?今日は肉焼いてーキャベツとピーマンの野菜炒めにー卵のスープまで作りました!」

「ふふ、偉い偉い。あ、でもお肉はニンニク増々みたいだから遠慮する。生理痛酷くなるし明日もキスシーンがあります」

「えーまたー?エッチはなしだけどちゅーはいっぱいしよ?」


ん〜と顔を寄せればこれは嫌そう。だからほっぺにキスをしたら少しだけ苦くてうぇってなる。メイク落とした直後の頬は苦いって覚えておこう。

更に体重をかけてきたから一度抱え直してぎゅってする。こういうとき身長デカくて良かったなって思う。

彼女と身長差がありすぎたらキスするときに首とか腰が痛くなるって木葉は言っていたけど、俺は好きな子をこうやって包んであげられるから身長差っていいじゃんって思う。

そもそも澪と木葉だったらほぼ身長差がないから彼女相手には俺くらいでかくなくっちゃダメだと思うけどな!


「今日ね、別現場のプロデューサーが来たんだけど…メインキャストほぼ全員に嫌味吐いてった。ムカつく」

「ピンクの上着肩にかけてベレー帽してる系のプロデューサー?」

「モスグリーンだった。帽子ないけど丸眼鏡でいかにもって感じ」

「へー今時そんなのいるんだなー」

「こっちは全員朝から撮影して解散するところだったのに1時間もネチネチネチネチしつこい〜ん〜ッ」


俺から背中を話して三角座りで顔を膝に埋めながら唸っている。演技の良し悪しに関しては俺は評価をしてあげることはできない。ただ、かっこ良かった、可愛かった、面白かった、今日も好きだよ。そんなことくらいしか言えない。


「料理した俺も偉いけど!今日一日頑張った澪もえらいえらい」

「ん〜〜、悔しいーッ!な〜にが”ホ○カリのCM出てるんだから女優になるんだよね?売れる約束されてるから楽でいいじゃん”よ売れる約束なんてされてないしっ!女優もしたいけど、私はまずモデルの方を頑張りたいって公言してるのにッ!」

「よしよーし、おいで。泣いてもいいぞ?」

「泣かないわよ……でも正面からギュってして」


腕を広げて荒れた彼女をギューッと抱き締める。白くて柔い肌に俺の腕や指が埋もれる感覚は未だに夢なんじゃないかと思う。

そして彼女の甘い汗の香り…に相反する香りがキッチンからしてカッコつけてるのに締まらねぇなぁと思った。


「光太郎の匂いだ」

「え、風呂入ったけど汗臭い?」

「臭くはないけど…なんか、光太郎の匂い」

「臭くないならいいや。俺も今澪いー匂いだなーって思ってた」

「私の方が汗臭いんじゃない?」

「ぜーんぜん。俺澪の匂い好き」


同じことを同じタイミングで考えるのは団体スポーツではたまにあることで、俺と澪は中学の頃からよく一緒にいたから考えることが似てきてもおかしくないのかなって思った。うん、嬉しい。

土気色だった顔はほんのりピンクになって体温も俺に近くなってきてる気がする。寒くない?ううん、光太郎が温かいから大丈夫だよ。なんて恋人同士っぽく甘い雰囲気が部屋に充満する。

生理中だからエッチはできないけどチューはしたいなと先ほど苦味を感じた頬に唇を寄せる。まだ苦味はあるけど滑らかなそこにチューしたり鼻でつつく行為は止められなかった。


「キスだけだから…ね?ダメ?」

「その前に歯磨き。ニンニク…」

「速攻で終わらせてくる!!」

「歯はスポーツ選手の命だからしっかりすること」

「はーい!!」


しっかりと磨いてベッドで待っている澪のところに急ごう。明日の朝も二人とも早起きだから、頑張って澪より早起きをして今日の卵スープにほうれん草を入れて朝御飯にしよう。

でもその前に、澪をぎゅーって抱き締めて疲れを忘れるくらいチューをしよう。俺がしてもらっていることを、彼女に少しでも返したいと思う。

男の甲斐性を今のうちに見せておきたいだなんて、ナイショな?


2021/04/20

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ぬな様リクエスト
僕と世界のアルカディアで疲れきって帰ってきたor生理中のヒロインに対する木兎

木兎が大学に入ってすぐのGWぐらいかな。ハグのネタはヒロアカでよく書くんだけど、木兎って包み込んでくれるデカさがあるからなんか良いなぁって思った。
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