オープン

sideモブ放送部

体育祭日和。私にはそんな厳しい日差しは関係なく放送テントに入りマイクスタンドの前に座っている。これは放送部と吹奏楽部の特権だ。

開会式のアナウンスをするからという正当な理由だけど比較的近くに学園長とか生徒指導部の怖〜い先生もいるから居心地はよろしくない。

日焼け知らずの快適空間から出たくない。と思っていても思い通りには進まないのが人生だ。


「熱中症っぽいから代打よろしく頼むー」

「えっ!私ですか?!!」

「お前部長だろ行ってこい!!!」

「ひぇ〜ッ、げ、原稿どこっ?!」


後輩ちゃんが務めるはずだった競技を急に代打で務めることになってしまった。しかもこれは実況を担当…できなくはないけど得意ではない。

部長だからという理由で丸投げされたそれは、去年の流れも知ってるし打ち合わせもしていたから問題はないはずだ。原稿の隅っこに使えそうなフレーズを書いておこう。

まともに読みを通していないのにアナウンス席から実況へとバトンがタッチされる。


『はーい!こちら実況席!皆さんもご存じの通り人気種目である借り物競争は、人物に限定した"借り人"競争でもありまーす!借り人を見つけたらゴールにいる私のところへ来てくださいね!担任の先生、髪の毛が長い人、髭が生えてる人、好きな人!お題はランダムで出されます!運も実力の内かも!今年はどんなレースが繰り広げられるんでしょうか?!もう間もなくスタートでーす』


中盤からノーカンペで言い切った私は誉められるべきじゃないだろうか。後進育成のためにも後輩にしてほしかったと思いつつサポートするのも先輩の役目だろうと嘆くのは止めた。どうせなら楽しまなくっちゃ…じゃなきゃギャラリーも冷めてしまう。

1年生からスタートして順調に借り人を連れてゴールへと走ってくる。一応お題の確認のために毎回私のところダッシュしてくる様は、下痢なのにトイレに行けず鬼気迫っていて怖い。

今年の"好きな人"枠は1年生で出てしまった。幸いにも付き合っている人がいる男子生徒が引いたので彼女を迎えに行ってエンダァ〜って感じで完結。

それでもやっぱり一番盛り上がるのは3年生たちで特に美人と名高い青羽さんのときは悲鳴が聞こえた。まぁお題が"自分より身長が10cm高い人"だったからそのあとすぐに安堵の溜め息が聞こえた。

他に盛り上がったのは最終組の彼だろう。この学校で知らない人はいない梟谷きっての有名人、木兎光太郎。

バレーボールはとてつもなくかっこいいのだがバカだから彼の事をちゃんと知っている人は付き合うとめんどくさい筆頭だというのが共通認識。ちなみに私は同じクラスになってから彼のバカさを知った。

そんな彼はお題を一番に引いてすぐさま一点を見つめる。その先には青羽さんがいて一目散に走り出した。

おや?


「澪!!!来て!!!!」

「はっ、っちょ、待って。私サポーターしないと走るの怖いって……ッ?!」

「早く!サポーター着けてる間に誰かゴールしちゃうじゃん!!抱っこしていく!!!」


おやおや?


「いっ!!?ちょ、木兎!ふざけるな!!」

「俺は大真面目なのー!!」


おやおやおや?

大真面目だと叫ぶ木兎は青羽さんをお姫様だっこして爆走してきた。ラブな展開かと期待したが彼らが付き合っているとかどっちかが片想いだなんて話は聞いたことがない。

お題がマネージャーとかだったら彼女も…ん?待てよ。バレー部のマネージャーなら同じクラスの白福の頼んだ方が近いし無難だからこのお題ではなさそう。

くしゃくしゃになったお題の紙を彼の手から引き抜き中身を確認する。なんだ、こういうことか。


『赤組3年生木兎さんのお題は〜…”一番長く一緒にいる人”!でした〜!これはぁ……?』

「同じ中学だしクラスは違うけど部活と登下校は澪も一緒だしさっきお昼も一緒に食べた!!!」

『私たちもお二人が一緒にいるのよく見かけるのでクリアー!』

「へいへいへーい!!俺もいっちばーん!!」

『お姫様抱っこもかっこ良かったですよ〜!見ている方がドキドキしましたー!』

「マジで??俺かっこ良かったってさ!!」

「私は恥ずかしかった…ッ」


このお題は体育祭を見に来ている親だったり兄弟だったりを連れてきたらクリアにしてもいいよというものだけど彼が連れてきたのは家族ではない青羽さん。

けれどこの学校で有名な二人だからバレー部でよく一緒にいるのも知っているし中学から一緒だったら高校のチームメイトよりも一緒にいる時間は多い事は間違いないだろう。

そして何より会場を沸かせたのはその運び方である。お姫様抱っこってそんな簡単にできるものなんですか?あまりに自然な流れでお姫様だっこするからちょっとだけ実況が止まってしまう。

一般的な横抱きよりグッと引き寄せて重心を上げている分俵担ぎに近いお姫様抱っこだ……あ、青羽さんの胸が木兎の顔面に近い。

青羽さんは梟谷女子でもっとも身長が高いと言っても過言ではないはず…まぁ木兎の方が高身長ってわかるけどあの抱え方は新しくてちょっとだけときめいてしまった。

私の後輩も隣にきてかっこいいと呟いていたから、アレに騙されちゃいけないと釘を刺しておいた。


「木兎と青羽さんってホント仲良いよね」

「まぁな!」

「先輩たちそれってラブの予感はないんですか?!」

「ない」

「え、そんなにバッサリ言っちゃうの?」


顔を赤くしたまま青羽さんはそう言い切ったけれど木兎は首をかしげて悩むだけで否定することはなかった。これは後輩の言うようにラブの予感があるのかもしれない。


「お似合いだと思うんだけどな」

「お似合いだって!嬉しいな澪!」

「これをどう見たらそうなるの」

「そーですよ、ギャラリーからもコールありましたし!」

「これ罰ゲームかしら?罰ゲームというか嫌がらせじゃない」

「いーじゃん目立って!へいへいへーい!」


ニヤニヤとしながら話題を振ったら、一言”困る”とだけ言う。もっと掘り下げたかったけれど次にゴールする組がようやくこちらへと向かってきたから私は私の仕事をしなくてはいけなくなった。


「あれ?靴どこいったの?」

「あんたがいきなり引っ張るから脱げたのよ!責任持って送り届けて!」

「おう!!任された!!」


そう言って自分達の待機スペースに戻っていくとき当たり前のようにまたお姫様抱っこをしている。今度はウェディングフォトとかでよく見る構図だった。

彼らの夫婦漫才のような…痴話喧嘩のような言い合いを横目で確認してマイクのスイッチを入れる。


『さーて続いてのお題は…”タートルネック(長袖)を着ている人”でした!お見事クリア〜!この時期には難しいお題ですね!実行委員の厭らしさが伺えます』


ヒートアップしてきた体育祭も、放送部というちょっと異なった立ちだからこそ他の人より楽しめると思っている。


「木兎ーかっこよかったじゃん!!」

「青羽むちゃくちゃ迷惑してたけどな」

「それよりなんか…照れてない…??」

「いーじゃんいーじゃんヒロインみたいだったよ〜」

「お!じゃあ俺がヒーローだな!」


ヒーローにしては些か破天荒すぎやしないかと心配になるものの、彼の隣は彼女がしっくりきた。うぬ。万人が思うお似合いというのはこういう組み合わせなんだろうか。


「何がヒーローよ…強制的に醜態を晒して恥ずかしくない方がおかしいでしょ!みんなも横抱きにされて運ばれてみなさいよっ!!」

「「「「「いやでーす」」」」」

「ここに私の味方はいない…」


たぶん、ニコニコしながら抱える彼が一番の味方であり、敵であり……パートナーなんだと思った。


2021/04/20

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ねうこ様リクエスト
僕とサンシャインで、学生時代に行事で周りからお似合いだと言われるマネちゃんと木兎

いちゃいちゃしてない。うぬ。
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