5月29日、事務所。
「ボス、今日も手作り弁当ですか?」
「黙れ、失せろ」
ヒーローになってからの食生活は不規則だ。食事をしようとすれば出動なんてザラにある。
コイツはサイドキックとしては優秀だが、減らず口にたまにイラッとする。
「毎日毎日凄いですよね〜。メニューもいっつも違うし栄養バランスも考えてある」
「ったりめーだろ」
「お礼とか感想ちゃんと言ってます〜?素直さがないと愛想尽かされちゃいますよ〜」
やたらと語尾を伸ばす喋り方がウザい。
ほうれん草のおひたしにだし巻き卵。魚と肉は香草焼きで一味が利いている。肉の方には醤油の風味がして飽きが来ない。
そして牛蒡と人参の炊き込みの握り飯。握り飯にしているのは外でも食べられるように配慮してだ。
俺の舌を満足させ、気も利く。
「ボス好い人捕まえましたよー、ホントに幸せ者で羨ましいですわー」
ンなことわぁっとるわ。
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「おかえりー、ご飯先に済ませちゃった。すぐに食べる?」
「食う」
家事は基本時間がある方がする。料理に関しても互いにそつなくこなすため大きな負担ではない。
しかし弁当に関しては必ずコイツが準備する。夜勤で朝方に帰宅してもだ。早く寝たいだろうに冷蔵庫に一人分の弁当箱が準備されている。
温め直されテーブルに並べられた皿は6つ。小鉢が2つ、サラダが1つ、メインが1つ、汁物に雑穀米。
今日は時間があったのか、さっき冷蔵庫を覗けば常備菜が増えていた。
準備が終われば我関せずと、ソファーに座りデザートのアメリカンチェリーをつまみニュースを見ている。
黙々と一人味わい、ごちそーさんと心の中で唱え手を合わせる。
片付けた後、ニュースに食い入る顔を見ると何故か愛しくなった。
いつもより近い距離でソファーに腰掛けた俺に違和感を感じたのか怪訝そうに覗き込む。
「…………何?」
「……別に」
「…そう」
チェリーに手を伸ばしかけて止めた。
『お礼とか感想ちゃんと言ってます〜?素直さがないと愛想尽かされちゃいますよ〜』
サイドキックのウザい顔がちらつく。
素直さは昔に比べたら互いに顕著になった。他のやつらは知らんが俺たちはこれで十分だ。
…………充分か?
別にアイツに触発された訳じゃない。
重心をずらし背中座りになって寄りかかる。
「何?甘えたい気分なの?」
「…………………………今日も美味かった」
「は?」
「弁当も、いつも感謝してる」
たっぷり間を含ませ、普段は言わない言葉に眉間にシワが寄るのがわかった。らしくねぇ。
「ふふっ、どういたしまして。ちゃんとお礼言えて偉いわね」
少し肩を震わせ笑い、頭に手が伸ばされる。礼を受け入れる体温は心地良く俺を充たす。何だ、言ってみれば案外呆気ないもんだ。
覗き込む顔はさっきと違い頬を染めている。はぁ…また愛しくなった。
コイツは目を細め淡く微笑むのがよく似合う。少し口角が上がったそれを引き寄せてゆっくりとソフトに触れる。
「素直だね、どうしたの?」
「爆発した」
「何それ?」
愛しさや幸せが爆発したから、キスは1回じゃ足りねぇ。今後はこの感情を感謝の言葉とキスで伝えよう。そう決めた"529の日"
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3万hitありがとうございます。
以前行ったアンケートで多かった「素直になれないけどデレた爆豪くん」を…デレかこれ?
かっちゃんは心の中ではずっと好き好き言ってそうっていう勝手な解釈。あとキスさせるつもりなかったんですけどね。だってかっちゃんがキスしたいって訴えるんだもの、しょうがないじゃないか。
3万hitが5/29だったんですが、ふと幸福の日じゃん?と気付きそれと絡めてみました。
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