「だぁかぁら!ほんっと頭固いなァ!!」
「そんな貧弱な作戦じゃ突破されンだろが!」
「違うってば!突破されるんじゃなくってわざと突破させるのよ!」
「このメンツじゃ応用できねェだろーがッ!!」
「爆豪がサポートすればいいじゃん!」
ヒーロー基礎演習のチーム戦。作戦会議をする中で大事になってくるのはチームメイトの個性を生かした戦法。そして一番必要なのは協調性。
爆豪、#環心#、切島、上鳴、瀬呂のチームはバランスが良いにも関わらず、人間的なバランスは壊滅的。
一部のせいで。
「また始まったよ。爆豪と#環心#の喧嘩」
「ほぅほぅ。で、今回の喧嘩の原因はなんですかな?」
「相手の隙を突きたい#環心#VSめんどくさいから正面突破の爆豪」
「へぇ、爆豪にしちゃ計画性の無い方選んでんな。やっぱ#環心#居るからか?」
「たぶんな。無意識に張り合ってるっぽい」
爆豪も本来であれば相手の弱点をネチネチと攻めることを好むのだが、今回は作戦を提案してきた#環心#に突っかかる。
『作戦会議終了。1分後にAチームとDチーム始めるぞ』
「やっば、時間」
「俺は#環心#の作戦で」
「俺も、Dチームって轟チームだろ?わざと誘った方がいいって」
「……ッチ」
「フンッ」
一触即発。
しかし演習が始まってみれば二人の息の合ったこと。チームメイトですらさっきの喧嘩は幻だったのかと疑うほどだ。
「THE・快・勝!」
「は〜どっかの誰かさんのせいですっごく疲れたわ」
「俺らもフォロー回りたかったけど爆豪速すぎ」
結局フォローに回ったのは#環心#。スピードで追い付くのは瀬呂もだが爆風で思うように近づけなかった。轟の背後をとった爆豪だったが炎によって阻まれる。それをカバーしたのは#環心#。
反省会でも#環心#ばかりに評価が集まり爆豪は正直面白くない。それと気に食わないことがある。
性差だ。
男でこれだけできるのだったらまだ良い。女に上を行かれるのは癪だ。
女は女で武器も多いだろうがそれをあまり感じさせない戦闘スタイル。普段着だと見た目も中性的であるため男と間違われても仕方がない。
コスチュームは腹出ししているので間違われないだろうが…。
「#環心#ってやっぱ気遣いできるよな」
「チームアップで協調性って大事でしょ?媚び売るわけじゃないけど、愛想振り撒いといて損はないと思うんだよね」
「ッは、ただの売女だろ。お前みたいのが趣味の男にでも媚売っとけば仕事はなくならねェだろうよ」
爆豪の一言がその場を凍り付かせる。今のは言ってはいけない言葉だ。ヒーロー以前に人として女を傷つけるような。
押し黙った一同。特に#環心#は目を見開いたと思ったら俯いてしまった。
フォローを入れても微動だにしない。
「おいおい、今のはねェわ」
「糞の下水道煮込み過ぎんだろ!あっ!!おい#環心#待てって!!」
この場には居られないと思ったのか顔を一切誰にも見せることなく更衣室へと行ってしまう。
「アイツが泣いてるの初めて見たかも…」
地面にシミを作っているのは皆の汗か、轟の氷結の欠片か、彼女の涙か。
授業が終わり寮に帰ってからも事情を知っているメンツの空気は重い。
爆豪もさっきのは不味かったと感じ少し焦りを見せる。傷つけるつもりはなかった。苛ついていて心にもないことを言ってしまっただけだ。
「なぁ、#環心#どこいった?」
「たぶん部屋ちゃうんかな?すぐ行っちゃった」
「元気がなかったけれど何かあったのかしら?」
様子がおかしいのは他のクラスメイトも感じていたようで、明るく活発な彼女は見られなかったと口々に言う。
「……だってよ、かっちゃん…?」
「バクゴー?」
「男ならさっさと行ってこいって!!」
周囲に促されたわけではないが爆豪は#環心#の部屋に向かう。今回は全面的に爆豪が悪い。
アイツが男っぽく振る舞っているのは贔屓されたくないから。俺たちと同等であろうと努力しているのも知っている。
いつも強い口調がぶつかり喧嘩してしまう。
コンコンコン
「俺だ、開けろ」
自らを傷つけた男の訪問に彼女は返事すらしない。普通はそうだ。顔すら見たくないはず。
「…悪、かった」
出てこないならばもうここで言うしかない。謝ったところで失言がなくなるはずはないのだが、それでも誠意は示さなければいけない。
彼が謝ることすら天変地異。
「爆豪って…本当、糞の下水道煮込みだよね」
部屋の中から聞こえてきた覇気のない声。小さく開く扉の隙間からは灯りが感じられない。真っ暗なんだ。
「悪かった、っつてンだよ」
「うん。私もいつも煩くして、ごめん」
今回は彼女が謝ることはないはずだ。ひどく落ち込んだ声は、この謝罪だけで終わらせてはダメだと悟らせる。
「お前が謝るこたねェだろーが」
「いや、張り合って迷惑かけてたから」
張り合うもなにも、ヒーローとして自身の主張がないものはそのうち消えていく。だから彼女のはっきりとした物言い間違っていない。
「いや…俺が勝手にイラついてただけだろ…お前を卑下するのは違ェ」
そう、事の発端は女でも技量と信頼がある#環心#に爆豪が嫉妬してイラついたことにある。器がお猪口程度しかない男だから仕方ないのかもしれないが…
「…んー………男っぽい私が愛想を振り撒くのは媚売りだって感じる人もいるかもしれない……、爆豪にそれ言われちゃったのが一番ショックだったんだよねぇ」
「……」
「胸は絶壁だし、性格も女っぽくないし。でも、私だって、女の子だもん。何を言われても傷つかない訳じゃないよ」
「お前を男だなんて思ったこたァねぇよ」
彼女も彼女で男っぽく振る舞うことで彼らと平等にいられる、認めてくれると勘違いしていた節があったようだ。
「じゃ、じゃあさ?爆豪の近くにいてもいい?ウザったいとか思わない?」
「別に男だろーが女だろーが構わねぇよ。やりたくねぇことはしねェし、ウザい奴は最初から追っ払っとるわ」
爆豪なりの励まし。その言葉は彼女にとっては革命的で、最初から無理に振る舞わなくても良かったのだと知らせる。
「うふっ、じゃあ今からは”可愛い女の子の#環心#さん”として爆豪をフォローしてあげるよ」
「そーしとけ」
彼と渡り合うのが一緒にいる条件だと勝手に思い込んでいた。だけど彼は案外優しいようで、明日からは、少し肩の力を抜いて笑顔を振り撒くことができるだろう。
好きな人を、少しだけ理解できた。
「そっちの方がいいわ」
ー
ー
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匿名様リクエスト、男っぽさにコンプレックスがある女の子と爆豪。
長編のヒロインちゃん主体に執筆することが多いので、新鮮な気持ちで男勝りな彼女の物語を書きました。
好きな人のとなりにいるために、趣味を合わせてみたりサバサバした女を演じてみたり。でも案外、素でいた方が一番良いよね?…と月並みですけどそう思います。
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