開拓というもの

入寮翌日、早朝。


「また、やらかした…」


頭が痛い。泣きすぎて水分が足りないからだ。目も腫れている。合宿でも似たようなことあったなと思いつつ、腫れた目元を冷やすためタオルを持って共有スペースへと足を伸ばす。

真夏だが早朝は空気がひんやりする。カーディガン羽織ってきて正解だった。まだ、誰も起きてはいないみたい。

目元は前回よりも酷い腫れをしたから、氷でさっさと冷やさなきゃ。共有の冷蔵庫には保冷剤や冷却シートがあり、患部を冷やすのにも困らなさそうだ。

冷たぁ……


ガチャ


「ん?」

「あ?」


玄関から入ってきたのは爆発頭を汗で濡らした彼で、たぶん走ってきたんだろう。寮に入って今日から訓練三昧なのに、習慣を変えない彼はなんて真面目ちゃんなんだ。


「っは、ぶっさいく」

「うるさい、女の子の泣き顔見る機会なんて早々ないんだから見れたことに感謝しなさいッ」

「もっとまともな面晒してから言えや」


おはようの挨拶もなく放たれる暴言。互いに噛みつき合うこの感じ懐かしいな。不細工と言われたことはとても癪だが、正直これを可愛いなどとは私も思わない。

隣で水分補給に努める身体からは若干甘い香りがする。武器である汗の循環を良くするために代謝を上げる。これもまた努力の1つだ。

代謝上げたら冷え症も治るかなぁ。それに基礎体力を上げることで、できることの幅が増えるかもしれない。


「私もロードワークしようかな…」

「……シオン、朝5時半」

「へ?」


ポツリと呟いた独り言に、去り際の彼の流し目が弧を描く。何でちょっと嬉しそうなのよ。

再び一人になった空間で目元を冷やしながら、誰に見られるでもないのにハイネックの襟を引き上げて口元を隠した。


 *
 

 *


教室。


「昨日話した通り、まずは仮免取得が当面の目標だ」


ヒーロー"仮"免許。これを取得することにより有事の際には己の判断でヒーローとしての立ち回りができる。

しかし、仮免といえど合格率は例年5割を切る。通常であれば2年次から取得に取り組むが……ハードルは高いな。


「それで今日から君らには一人最低でも2つ……必殺技をつくってもらう!」

「「「学校っぽくてそれでいて!!」」」

「「「ヒーローっぽいのキタァァ!!!!」」」


今日、ヒーローは皆必殺技を持っている。生き残るためには絶対に必要なものだ。

そして訓練を行うのは体育館γ、通称トレーニングの台所ランド…略してTDL!!


((((TDLはまずそうだ……))))


セメントス先生ギリギリすぎませんか?

必殺技は何も攻撃である必要はないらしい。己の勝利の切り札…というものだろうか。

仮免取得はヒーローとしての適性を見られる。試験内容も毎年違うため、すべてを整えなければ合格は厳しい。そのための圧縮訓練。


私の強みは……情報力。


セメントス先生によって生徒に合わせて作られる訓練ステージで私は一体何をすべきなんだ。


「必殺技ハ有ルノカ」

「個性を一面に展開して状況把握をするものと…必殺技っていいのかわからないんですけど、触れて視て弱点突くって感じですかね」

「ソレヲ伸バスカ…触レズニ視ル事ハ可能カ?」


触れずに視る。今までは触れて物質の構造や弱点を視ていた。え、それって可能なんですかね。


「触ル動作ガアルト戦闘ニオイテ不利ダ。無意識ニハ出来テイルカラソレヲ確実ニシロ」

「あっ」


火事場のバカ力ではあったが、先輩と戦ったときや神野でナイフを投げたときはできた……それを確実なものにすれば、きっと私に救えるものが増える。

闇雲にやっても意味がない。私の原点を思い出せ。そしてあの時の悔しさを忘れてはいけない。


「ジャア手始メニ展開シテミロ」

「はい…、キャプチャー・オン」


視渡せば阿鼻叫喚の地獄絵図。ガンガン進める人、考案に時間を当てる人。よし、人物の特定も前よりキツくない。


BOOOM!!!!

「う、っるさ…」

[まだ足りねぇ!!!]


どんだけ暴れたいのよあなたは……

抑制され続けて爆発した彼は文字通り爆発中。夏ということもあり個性の調子もよく、生徒に1体ずつ当てられたエクトプラズム先生を既に豪快に消滅させた。

昨晩、話し合いの末号泣して仲直りをしたけど…あんなに静かで優しい体温だったのに、あれはマボロシ〜ですか?


「爆豪くん張り切ってる!」

「アイツもう技のビジョンたくさんあんだろうな」

「入学時から技名つけてたもんね!」

「てかアイツむちゃ機嫌良さげ?」

「……はぁ」


機嫌良さげなのは悪いことではないけれどね。暴れすぎるのはやめてもらいたい。


「技名モ考エトケヨ」


必殺技の名前もあった方がよろしいのか。今のところ『キャプチャー・オン』しかないから…視て弱点突くのは…何だろ。

先を読んだ攻撃ならリードだけど捻りがほしいな。リード…アヘッド?いいかも。


get ahead…go ahead...look ahead

言いにくいなぁ。これは再考案しとこう。まずはそこに至るまで個性を引き上げなくっちゃ。


阿鼻叫喚の地獄絵図。
さてさて、皆さん頑張りましょう。




【開拓】
荒野を開いて田畑とすること。転じて、新分野を切り開くこと。
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