壮途というもの

3日後、自宅。

母を目の前にして家族会議。数時間前に帰ってきた母は家庭訪問に合わせて帰国してくれた。父はあと少しで帰ってくる。

大方の事情は把握しているらしく、入寮に関しては私の意思を尊重してくれる。


「何か変化はあった?」

「……クラスメイトの前で…泣いた」

「あらあら彼氏?それとも出久くん?……でもクラスメイトって言うんだから……………やっぱり彼氏???」

「違うっ!クラスメイト!」


芦戸さん並に女子のトークに持っていきたがるのは彼女のめんどくさい部分だ。男勝りな体術と勝ち気な性格なのに乙女なんだよなぁ。


「シオンが泣き場所を見つけたんだったら寮に反対要素なんて1つもないわ。男の子の前で泣いたのはあの人には内緒よ?嫉妬しちゃうから」


男子なんて一言も言っていないのに…やっぱり上手だな。


「あのね、事件の捜査に協力して…力不足だと思ったの。個性の使い方は誰よりも勉強して実践してきた。それなのにプロの世界じゃダメダメで…自分のことで精一杯だった」

「改善点が見つかったのなら改善すること。応援はするけど無理はしちゃダメよ」


親は寛大である。ありがとう。


「それとフランケンシュタイナー悪くなかったけどもう少し深くかけないとダメねぇ……よしっ」


親は寛大である。と、同時に理不尽でもあった。


「お母さんと組み手しましょう」



 * 
 

 *



「何故そんなに息切れしているんだ…」

「ちょっと…我が家の、特別な教育、がですね」


ゼェハァと息を切らしながら相澤先生とオールマイトを家に招き入れる。

母と突如始まったリビングでの組み手はそこら辺のプロとするよりハードだ。だって軍事格闘術極めた人よ?

父が帰ってきたら終わるだろうと思っていたが、それ以降も続き、結局終わったのは家庭訪問に来た先生たちがインターホンを押してからだ。


「まぁいい…えぇっと、事前にお知らせは行っていると思いますが、本日は雄英高校の全寮制に伴う入寮について…」

「先生、堅苦しいことは無しでいいですよ。僕たちは全面的に賛成です」


先生の説明を遮るようにして父は言う。その白い瞳はまっすぐと彼らを捉える。手放しで任せすぎなんじゃないかと思うが、それは信頼の証。


「シオンは個性柄達観しています。怪我や今回の捜査協力みたいに心を磨耗したり不安はありますけど…いいクラスメイトたちにも恵まれて、この子は幸せですよ」

「思春期の子達だらけで大変だとは思いますがよろしくお願いします」


両親に習って頭を下げる。親は無条件で子供を信じるものだと光己さんも言っていた。信頼されているのは先生たちだけでなく私もなのかな。

普段は何を考えているのかわからない、読めない人たちだけど優しい感情だ。

先生たちも呆気にとられてる。話がスムーズすぎるのも怖いもんだろう。

それから入寮の日時や引っ越しに関しての説明。滞在時間は15分もなかったと思う。見送りに出て小さくなってしまったオールマイトの姿を改めて目に入れる。


「体調は…いかがですか…?」

「だいぶいいよ。君もちゃんと寝れてるかい?」

「まぁまぁですね」


寝れていないわけじゃない。なんとなく夢見が悪い気がするけど睡眠はとれている。そりゃ神野事件でやり残したことが気がかりではあるが…


「あの……爆豪くんって」

「お前の方が視てたから知っているんじゃないのか」

「視てはいましたけど…救出されてからは知らないので」


気になるのなら電話をすればいい。家が近いんだから会いに行けばいい。簡単なのことなのにできないのは私が弱いせいだ。


「爆豪ん家は次だ……何か伝えておくか」

「いえ……大丈夫です。彼が無事に光己さんと勝さんのところに帰れたのであれば」


きっと優しい勝さんだから夜も眠れないほど心配したはず。光己さんも私を励ましてくれたけど不安はずっとあったはず。爆豪くんが二人のもとへ帰れたのであればこれ以上のない成果だ。

きっと彼も雄英に居続ける。一番じゃないと気がすまない人だから。雄英トップを目指してこれからもがむしゃらに走り続けるだろう。

話し合う機会はたくさんある。嫌でも顔を合わせるんだから…ちゃんと説明しなきゃ。


「そうか。入寮は8月中旬を予定している。親御さんに感謝しとけよ。特にお前はな」

「はい、そりゃもう感謝でいっぱいですよ」


あと1週間でこの家を出るんだ。2年半は私の帰る場所は雄英になる。薄淋しさはあるがせっかく背中を押してくれたんだ。

たまには帰ってこようとは思うけど…知らせがないのは元気でやっている証拠だと思ってね。


「次に会うときはヒーローかな?」


それは気が早いよ父さん。次会うときは…仮免ヒーローだ。



【壮途】 前途に大きな希望を持った勇ましい門出。
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