期末試験、振り替え休日。
「来たな」
「迎えに来なくても大丈夫って言ったのに」
「上の空の奴が何言ってんだよ」
治療を進めることについての相談と父への書類を持って病院へと向かう道中。
本当は一人で行くはずだったのに、轟くんもお見舞いに行くから迎えに行くと言って聞かなかった。
「轟くんは皆と買い物行かなくてよかったの?」
「ああ、こっちの方が大事だ」
葉隠さんの提案により生徒のほとんどは買い物に向かっている。それぞれが合宿で必要な物を買い足しているが良い交流の場だろう。
轟くんはお母さんのお見舞いのため断っていた。
私も誘われはしたが相澤先生の"それ"をどうにかしないことには合宿に行けないため断った。こんな精神状態じゃ迷惑もかけちゃうだろうし。
「どうしたの?」
例に漏れず病院内での個性使用はキツいため彼のエスコート。左肘に手を添えて歩いていたが、急に立ち止まったことによりそれが離れてしまった。
「あれ、お前の親父さんじゃねぇか?」
「っへ?」
「こっちきた」
轟くん曰く、白い頭と白い瞳の男性がこちらに来るらしい。父の特徴と合致するんだけど、常駐している病院はここではないため違和感を覚える。
「シオン、いいところにっ」
「どうしたの?こっちで夜勤だったんだね。あとで父さんの病院に行こうと思ってたんだけど」
「今すぐにでも治療に向かおう」
平然と言ってのける父。
「いや、学校は?夏休みって話だったじゃん」
「その封筒視てないのかい?」
手から取り上げられたのは父に渡す方の封筒。勝手に視てしまったらそれこそ怒るだろうに。
「治療終了まで……登校及び行事参加の禁止?」
「は?」
轟くんが読み上げた言葉に理解が及ばない。
学校側からの登校禁止令?合宿だけじゃなくて通常授業も参加するなって?こんなことしても良いのか……自由が売りすぎて職権濫用ではないか疑うほどだ。
こんな…特別措置って普通はあり得ないでしょ。あ、雄英は普通じゃなかった……
「昨日電話で聞いてな。期末試験が終了したから、治療に専念してほしいって。その代わりヒーロー科の単位はどこかで補習はするらしいけど、通常授業は向こうで単位貰えるだろうし」
「急すぎて意味わかんないんだけど?今から飛行機で治療先に行って…そこで勉強もしてってこと?」
「ああ、研究は臨床試験まできている。だから君にって。理解力も条件もベストだからね」
夜勤で、顔を会わせていなかったのがいけなかった。倍速の個性持ちの研究者によって培養は順調、動物実験も終わった。
臨床研究が終わり臨床試験へ……被験者としては申し分ないってのはわかるけど。臨床試験に不安はない。あそこの研究者は優秀すぎる人たちだから。でもいきなりすぎて心の準備が整っていないんだ。
「さっきより酷い顔してるぞ」
轟くんでも私の心情を把握してしまうのか。よっぽど酷い顔なんだろうな。
「行っていいんじゃねぇの。早くしないと合宿行けねぇだろ、お前。まず治るとも限らねぇし」
「そうだけど……私、皆に何も言えてない…いずと爆豪くんには期末演習の時バレちゃうし……話してない。それじゃ逃げるみたいじゃないの」
「逃げるも何も、隠してる時点で逃げてるだろ。あと少しだけ真実を知るのが延びてもあんま変わんねぇよ」
今さら変わらないかもしれないけれど気持ちの問題なんだってば。
皆に甘えても良いんだろうか。スマホで連絡はできるけど、それでは礼儀に反しているし、それこそ落胆させてしまうんじゃ。
甘えたい、甘えたくない。
そんな思考がぐるぐるとまわって表情が歪む。
あの時失望させてしまったいずと爆豪くんは、笑って許してくれるんだろうか………、
「そのくらいの嘘、許してやれねぇほど器の小せぇ奴はヒーローになれねぇ。経験上、許しを請うのは案外難しくないもんだ」
「……うん…」
「プライドを守るだけの嘘だったんじゃねぇんだろ」
許しを請うか…きっとお母さんとのことを言っているんだろうな。経験者の言葉は重さが違うな。
立つ鳥跡を濁しまくりだけど……時間が経って濁りは沈殿して綺麗にする。
真っ赤な嘘と、真っ白な嘘。誰かのための嘘は…
*
*
同日深夜、空港。
「<いずに電話>」
PRRRRRR
『留守番電話サービスです。発信音の後にメッセージをどうぞ…ピーッ』
「もう夜遅いから寝てるか…いずごめんね。目のこと黙ってて。爆豪くんが言った通りUSJから見えてないんだ。今からね、それを治療してくるの。だからしばらく学校休む…合宿に間に合うように治療してもらう…ごめん…何も言わなくて…帰ったら、ちゃんと話すから……」
助走のために下がる事に、笑顔で手を振って下さい。
「ちょっと、行ってくるね」
【逡巡】
決心がつかず、躊躇うこと。しりごみすること。
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一時離脱させるのくっそ無理やりぃ…すぐ合流するんですけどね。エンカウンター?そんなのいないいない。2期終了。
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