手蔓というもの

2連休明け、放課後。

私にもありがたいことにヒーロー事務所から3件も指名が来ていた。体育祭に出場すらしていない私への指名だ。何かの間違いじゃないかと相澤先生に確認したけど、間違いなく私への指名。

ツテがあるわけでも、特別有名ってわけでもないのに……あ、ヘドロ事件でテレビに映ってたか。でも私より爆豪くんの方がサムズアップされてたし。入学式で生意気なこと言ったけどそれが外に出る…顔だけ出てたわ、夕方のニュースとかそういうので。

それはさておき、3名のヒーローはなぜ私を知っていたのか。そして個性を見てもいないのに貴重な指名枠を私にしたのか。


「考えてもわかんないなぁ、どうしよ。八百万さんは何処にいくの?」

「まだ決めかねていますが……全うな事務所に伺いたいですね」

「逆に全うじゃない事務所って、」


八百万さんのスカウトは100件以上ある。だけどあまり喜んではいないみたい。ちょっと見せてもらったら…秘書にしたいとか、美しさに可能性を感じただとか不純極まりないセクハラ親父たち。


「うん、女性ヒーローの所の方が良いと思うよ。セクハラ…モラハラするヒーローはアウトだって」

「そうですわね……環心さんはどこの事務所からの指名だったのですか?」

「これだよ」


私のはA4用紙に寂しく3件だけ綴られている。


「まぁ…こちらはトップ10入りしたヒーロー、女性ですが個性は強くて格好良いと人気ですわね。それとこちらは人気と実力を備えた凶悪犯罪も圧倒するヒーロー。どちらも対人にめっぽう強いヒーローですわ」


八百万さんの解説はいずみたいにブツブツ言うんじゃなくて要点を捉えた解説だ。リストを見つめる”ふり”をしながら視る。


「このヒーローはメディアで見ないし個性も戦闘系ではなさそう」

「そのお方は存じ上げませんの。緑谷さんでしたらご存じではないでしょうか。ですが最終的に決めるのは自分自身ですものね」

「うん、しっかり考えて決めようね」


リストの一番上にある事務所の名前。昔いずがオールマイトの話をしたときに聞いたことがあるような気がする。職場体験の最終決定は今週末まで。じっくり考えている暇はないが私にはヒーローオタクな彼の知識がついている。


 * 


職場体験先提出締め切り日、職員室。


「失礼します。相澤先生いらっしゃいますか?」

「お前か。これ貰うぞ」


職場体験先を提出に来たとわかったらしい先生は私の手から用紙を奪っていく。しばらくの沈黙のあと、何故ここに決めたのかという質問。理由まで添えなきゃダメだったのかしら。


「一番厳しそうだから…それと彼は私の知らない世界を見ているから、ですかね」


いずに聞いたヒーローの話。かなりすごい人からのスカウトだったからビックリしてしまった。でも私より、いずがビックリしていた。


「お前、3年に知り合いいたのか」

「いえ?」

「お前がもらった指名、全部3年がインターンで世話になってる事務所なんだが」


そもそも年上の知り合いはいない。中学校からも私たちが初めての雄英進学者だし、両親の知り合いの子供がここのヒーロー科に進学してる話は聞いたことがない。3年生…ん?

一度だけ3年生たちと話したことがあった…気がする。確か体育祭前。あのときは個性について聞かれて怪我を心配されただけだったけど、それ以来学校ですれ違うこともないし、声をかけられることもない。


「以前成り行きで昼食を一緒にした方はいますけど」

「そこで気に入られたのか。お前も変なやつらに好かれるな。目のことも含め先方に申し込みをする…治療の準備はこちらも進んでいるがどうだ?」


変な奴ら。確かに不思議で強引でよく読めない人たちだったのは覚えている。相澤先生に変な奴と言われるということは相当クレイジーな人たちだったんだ。あのときはそこまで思わなかったけど。

治療の手続きは父が大方済ませてくれて後は校長の判断次第。根津校長のことだから軽ーく「いってくれば良いさ!」と言いそうなもんだけどね。


「明日血液サンプルを採って送ります。後は夏休みを待つだけです」

「そうか、お前の学力ならどこでもやっていけるし休ませて治療に専念させるってのもできなくはないが」

「どちらにせよ時間はかかると言われているので皆と学びながら待ちますよ」


ここに来て痛い思いや恐怖を味わった。不甲斐なさから嫉妬して自分の運命を憂いた。その度に負けたくない、ここで成長したい思いが強くなった。だからできるだけ雄英高校ヒーロー科1―Aで切磋琢磨したいんだ。


「んじゃまぁ、確かに受け取った。お前は他のやつらよりしんどくなるかもな。覚悟しておけ」

「はい」


私が行くのは、


<サー・ナイトアイ>の事務所。




【手蔓】
たよりにすることができる縁故。手がかり。糸口。
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