小3夏。
「シオンちゃんすごーい!」
「また100点だぁ!」
テスト成るものが定期的に始まってから数年が過ぎた。齢8歳にして思ったことはテストクソつまらない。だって毎回満点だから。
競う相手もいなくなってしまった。こういう時、産まれたときからの友人だったら競いあいがあるんじゃないかなと思ってしまう。
「勉強頑張ってるもんね。次も頑張るよ」
なんて言ってみたけど勉強なんて人並み程度にしかしたことがない。問題を見れば、聞けば解ってしまうから。これはたぶん【物知り】の個性を持った母の遺伝。人間の心までも手に取るようにわかる。これは父の個性【心理】の影響だ。
人の心もある程度わかるし、テストもつまんない。年のわりに聡いと言われるのはそのせいだ。
「シオンちゃん!久しぶりだね!」
「いずだ……また事件現場に行ってたでしょ」
「っへ!?な、何でわかるの?!??」
「なんででも!危ないからダメだよ?」
帰りに今日のテスト返却時に思い浮かんだ友人に出会った。彼とは新生児用ベッドがお隣だったときからの付き合い。誕生日も私が1日早いだけ。
「将来のために…癖、みたいなもんで」
事件現場に行ったことを責めると必ずこう言う。
「いず…ヒーローになりたいと思うのはいいけどさ。無理だよ、今は」
「ッグ…」
今時珍しい無個性の彼は小さいときからヒーローに憧れていた。もちろんその事も知ってるし小学校は別々だけど幼稚園の時は一緒で、彼が無個性だってわかって泣いてたときも一緒だった。でも、いい加減気づいてほしい。
「今のいずじゃヒーローになれないよ」
「そーだぜデク。お友達のシオンちゃんも言ってんだからよぉ〜?ヒーロー諦めろよ」
また、彼か。
「かっちゃん…」
泣きそうになる友人に弁解したくなる。私が言っているのと、あなたの幼馴染みが言っているヒーローになれないは意味が違うんだよって。
「勝くんもそれじゃ無理だよ」
「ああ?俺はデクと違ってすげぇ個性があるからな!いずれオールマイトをも越えるヒーローになんだよ!!」
「凄い個性だけがヒーローじゃない」
彼を見る目と口調がつい厳しくなってしまう。あからさまに怒りを溜めている彼は手から爆破を起こす。その手をいずに向けるなよ。
「てめぇも没個性の癖にイキってんじゃねぇよ」
「ヒーロー志望が虐めとか世も末だね。私、勝くん嫌い」
「黙って聞いてりゃ!!!」
憤怒と共に手が出るのはいつものこと。右ストレート、左ストレート。間をとって右で爆破。よくも悪くも単細胞だからわかりやすい。かわして右手でビンタをお見舞いする。後ろでいずが息を飲むのがわかった。
「…よわっちぃの、かっこ悪」
固まってしまった勝くんをほっといていずの手を引き帰路につく。彼を叩いたのは初めてだった。いつもは良い感じに避けて逃げてしていたのに。なんとなくビンタしやすい位置にあった頬に手が出た。先に仕掛けてきたのは向こうだ。しかも個性ありだったし正当防衛だもん。
「シオンちゃん…強くなったね。かっちゃんビンタして…たぶん今頃怒ってる」
「強くないよ、勝くんがわかりやすいだけ。それにヒーローになりたいんだったら個性だけじゃ駄目だから。いずは根本的に間違っているんだよ」
「それは僕が無個性だから?」
幾度となく浴びせられた言葉なんだろう。無個性だから無理だ、無個性は価値がない。
「そう、無個性だから」
傷ついた顔をしないで。
「知識だけ増やしてもダメ。身体が資本だよ。鍛えなきゃヒーローになれない、チャンスを生かせない」
「シオンちゃん…」
少しばかり甦った笑顔に安堵する。彼がヒーローになりたい想いも知ってるし、どこかにいるであろう神様は案外悪い人じゃないってことも知ってる。
「いず、時はいずれ満ちるから。私が最初のフォロワーだからね?」
齢8歳にして達観していた私はいずれ来るであろう彼の希望を今か今かと待ちわびるのであった。
【個性】
個体、個人の持つパーソナリティ。異能。
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