燃焼というもの

雄英体育祭、決勝トーナメント2回戦。


2回戦

第1試合「緑谷vs轟」
第2試合「塩崎vs飯田」
第3試合「芦戸vs常闇」
第4試合「切島vs爆豪」


1試合目から個人的に気になる。昼休みに呼び出されて轟くんの過去を知ったいずは何を思ったんだろうか。

彼の氷結でだんだん会場が冷えていく。大きな振動の度に更に大きな破壊音が続く。いずは指と一緒に氷結を壊している。痛いくせに、勝ちたいくせに轟くんを煽って左の個性を使わせたいの?


[お前に何がわかるんだ!]

[うるせぇ!!]


轟くんの訴えと一緒に流れるのは昔の思い出。先程よりも鮮明に視えるそれに顔をしかめてしまう。左目に煮え湯を浴びせられたときのお母さん。大好きな彼女と引き離された悲しみを怨み、怒りに変えて過去に囚われている。なんて寂しいんだ。


「君の力じゃないか!!!!」


心が震えるという表現はあまり好きではなかったけれど、実感してしまえばストンと入り込んでくる。

暖かい炎は見ることができれば綺麗だったんだろう。身体にガタがきているいずはこれ以上の攻撃で無事でいられるはずがない。


氷結で冷やされた空気は部分的に氷点下になっていた。轟くんの炎熱は少なく見積もって800度。

気体の熱膨張はシャルルの法則から言うと1度ごとに273分の1ずつ体積が膨張、つまり約3倍の空気量になる。さらにボイルの法則から圧力が加わると狭い範囲でしか動くことを許されない分子たちは圧縮されると暴れ回って……


「爆発するッ!!!??」


WHAKOOOOOOM!!!!!!!!


咄嗟の判断でセメントス先生のコンクリ壁が形成されるがそれをいとも容易く破壊してしまうほどの爆発。

規格外にもほどがある。

勝者の予想はしていたがこれほどまでの激戦の果てだとは思いもしなかった。


「勝者!!轟くん!!!」


沸き上がる会場にまた吐き気がする。夢中で視ていたけど、疲労が溜まり制御がおざなりになってきた。


「うぅ……きも、ちゎる…」

「お前一回休め」


呆れ声の正体は言わずもがなハウンドドック先生で、暗に個性を使うなと言っているようだ。


「スタジアムを視て、から、休みます」


本来与えられていた任務を強行遂行する。戦力外通告がなんだ。みんなの安全を確認することができるのだから、無理をしてでもやらなければ。

ああ、でも身の程を知らなければいけなかった。

意識が途切れる前に視えたのは誰よりも熱いエンデヴァーだった。


 * 


 * 


スタジアムから聞こえる歓声に意識が戻る。もしかしなくても私かなり寝てたんじゃない?せっかくの体育祭なのに見逃すとはもったいないことをした。

既に決勝戦らしく、さっきの歓声は爆豪くんが轟くんをぶん投げて、投げられた彼が氷で場外を回避したから。戦闘センスの塊の彼に分がある。それに加えて今は冷気しか感じない轟くんは苦戦を強いられている。


「何でここに立っとんだクソが!!」


覚醒したばかりの頭に入ってくるのは爆豪くんの強い怒り。私が忠告したにも関わらず怒りに飲み込まれそう。


「起きたか」

「はい、ご迷惑おかけしました…」

「まったくだな」


優しい先生なはずなのに辛辣だ。ゆっくりと近くにある椅子に腰かける。いずの声だ、負けるな頑張れと声援を受けて熱が上がる。

そしてあっという間に決着がつく。


[…お母さん]


爆豪くんの最大威力に対して炎を出さなかった…

まだ、その時じゃないのかな。


 * 


 * 


ガシャンガチャン


「ン"ーーーン"ン"ーーーー!!」


いや、何で私が呼ばれたんでしょう?その前に彼はなぜ拘束されているのでしょう。

私は表彰台周辺で監視を行う役目を言い渡されたんだ。生徒を見張っておけと。見張っておいてほしかったのは最早この男一人なのではないだろうか。拘束器具を揺らし声にならない訴えをする。

そんなに暴れたって先生方特性の拘束器具たちから逃げることはできない。素肌に傷がつかないように配慮がしてあり、手足には革の拘束具が施されている。

いつの間にか先生たちは表彰やら閉会式の生徒誘導やらに行ってしまった。いなくならないでくださいよ。


「誰かこの状況を10文字で私に説明して」

「狂犬の主人」

「爆豪の世話係」

「二人とも何なのさっ」


ここにいるのは表彰台に上がる常闇くんと轟くん。二人とも丁寧に10文字で説明してくれた。しろと言ったのは私だけどさ、久々に表情が崩れてしまいそうになる。


「…有言実行できてよかったわね。私がいたらそれも叶わなかったかもしれないけど」

「ン"ン"ン"ー!!」


怨みたっぷりで言ってやれば訳のわからない叫び。たぶん「クソが」って言ったはず。彼の近くに寄り口輪に触れる。それだけで彼の納得していない勝利への不満が流れ込む。


「私は生きてるから…今度戦おう。ありがとね」


悔しいけど彼に助けてもらったらしいこの命。とても小さな声で言ったけど彼だけにはしっかり届いていたようで、怒りが消えていくのがわかる。

悔しいけど、今は君が一番だ。


 * 


 * 


後日、常闇くんによって「環心は爆豪使い」なる噂が広がるのは、また別の話。




【燃焼】 燃えること。力の限りを尽くすこと。
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