雄英体育祭、当日。
私は体育祭には出られないから開会式には参加できない。でも緊張しているであろうみんなを励ましにいく……といっても雰囲気を味わいたいだけ。
「なに、この雰囲気」
「えー環心コスチューム着てる〜!!」
控え室はピリピリした空気で充満していた。元凶は轟くんと爆豪くん。不安や緊張もあるけど…明るい声をあげた芦戸さんと葉隠さんに事情を聞き、轟くんの宣戦布告といずの下克上宣言が原因だとはわかった。
え、爆豪くんは一人でイライラしていらっしゃる感じなのね。
「ねぇねぇ、何でコスなの?」
「相澤先生に特別任務言い渡されてさっきまで…」
*
5日前、放課後
「敵侵入防止のための検問ですか…」
「お前の個性で敵意が強い奴と武器を持ち込もうとしている輩は弾き出せ。そう言うの得意だろ?」
「何万人も…?」
「死ぬほどキツいと言っただろう。お前は安全なところで指示を出すだけだ、生徒ではなく関係者として扱うからコスチューム着用な」
*
「というわけでして」
「じゃー今まで検問してたの?」
「うん。マスコミが終わったから一旦休憩で代わってもらってる。みんな頑張ってね」
相澤先生の言った通り死ぬほどきつくて逃げ出したいくらいだ。検問中は悪意を露にしている人はいなかった。ほとんどの人は純粋にこのイベントを楽しみにしているみたいだし、話題性のある1年と仮免取得済みがほとんどの3年へと観客は流れている。
残念ながら2年は、去年相澤先生がヒーロー科1クラスまるごと除籍にしているから盛り上がりに欠けるらしい。ただ色んな学科の活躍が見れるから人気はもちろんある。
楽しみにしているが故に盛り上げようというのか、花火やスターターピストルを持ち込もうとしている人がいたので速やかに回収させてもらった。
*
「せんせー、俺が一番になる」
笑ってしまうくらいシンプルな宣誓。笑わないけど。こういう大胆不敵なところは私も持ち合わせているので批判し辛い。入学式大人しくしとけばよかった……
「今年は粋がいいのが揃ってるね」
「さて、彼は有言実行できますかな?」
有言実行しなければ彼のプライドが許さないだろう。大衆の前での宣言。1位にならなければ笑ってもいられない。
いや、笑ってない?
ブーイングの中降壇する彼からは闘争心の中に静かな怒り。怒りは時に人のエネルギーとして凄まじい力を発揮する。革命運動然り、暴動然り。その怒りが導くのは成功か破滅か。
「環心、一応競技中も見張りを頼む」
「(この数を…)……はぁ、頑張ります」
何万人いるかわからない観客の様子も見ろって先生たち鬼畜過ぎませんか。関係者席から見張り台となる場所へ、隣には同じく見張り組のハウンドドック先生。
第一種目の障害物競争がもう間もなく始まる。
「スタジアムに展開……キャプチャー、オン」
会場の形を把握しそこにいる観客を形どっていく。キツい、けどこの状態ならまだ耐えられる。
「スタートっ!!!」
!!?!?
きっつ……気持ち悪い、
「おぇ、っ」
「おい、環心!吐くならバケツに!!?」
ミッドナイトの合図と共に始まった瞬間、観客のボルテージは振り切れる。そして生徒の中にも怨み嫉みの負の感情を糧にしている人がいて流れ込んでくる。
個性のキャパを優に越え脳ミソがかき混ぜられたようにぐるぐると回る。予めキャパオーバーしたら吐いてしまうということを伝えていたので見張り台にぶちまける事はなかったが……予期せぬ情報量。
「ちょっと……キツいんでエリア分けながらします、ウップ」
「また吐くなよ、鼻が利かなくなる」
「申し訳、ありません」
生徒としてではなくこの場を守るヒーロー関係者として扱われているため慈悲の言葉はない。これがプロの現場だと当たり前か、と感心しながら監視を続ける。私ももっと精進しなくては。
プレゼント・マイクの実況を聞いてはいるが、いかんせん与えられた仕事の方が大変で競技なんか視ている暇がない。どうやら先頭グループは最終ステージに到着したようだ。トップ争いは轟くんと爆豪くんか。
BOOOOOM!!!!!
大爆発!?地雷??これほどの威力なんて聞いてない!まさか敵が!?!
急いで地雷原と思われる場所へ意識を集中させると、複数の爆破済み地雷。視えたのはそれを掘り起こしたいずと爆発に驚く生徒たち。
なにそのコペルニクス的展開は。予想外にもほどがある。もはや珍事だ。
昔から予想外の行動はしていた。ヘドロの時だってそうだ。その時と違うことは考えて珍事を起こしたこと。
一番最初にスタジアムに戻ってきたいずを称える歓声の中に誰よりも高揚したオールマイトを見つけて、いずの大胆な期待の応え方に拍手を送った。
【椿事】
珍しい変わった出来事。思いがけない大変な出来事。
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