蹂躙というもの

USJ、セントラル広場


「環心!おい!環心返事をしろ!」

「残念ながら返事はないよ、お薬もプレゼントしたからさぁ?」


敵の主犯と思われる男は不気味な手を顔にくっつけているため表情は見えないが、声色は楽しそうだ。男と相澤先生の戦闘は一見抹消により先生が優勢に見えた。


「無理をするなよ、イレイザー・ヘッド」


しかし、個性を観察し弱点を見つけた敵が攻め入り、その肘を崩壊させる。少女の目と同じように。


「ところでヒーロー…本命は俺じゃない」


「教えてやるよイレイザー・ヘッド。そいつが対平和の象徴、怪人脳無」

「ヴェアア"ア"」


脳無の野生的な鳴き声が僕たちに恐怖心を焼き付ける。相澤先生は敵の個性を消すことができる。さっきもきっと消していた。でもそれが通じないっていうのは、素の力が化け物並なんだ。

シャーペンの芯のように腕が簡単に折られてしまう。


「どき、なさいよ、この出来損ないッ」


それを制したのはボロボロになったシオンちゃん。ナイフを右手に立ち上がる。お願い、もう傷つかないでくれ。戦わないで!


「あれー?薬効いてない…ことはないか。全知も無理すんなよ。お前は殺しちゃいけないんだから」


力なくぶら下がった左腕やアイマスクから涙のように流れる血。よく見たらナイフを持つ手は小刻みに震えている。足も生まれたての小鹿のようだ。それに加えて彼女本来の軽やかな動きではない。

脳無に突き刺さったナイフは力が入らないためかそれ以上傷を作ることはない。


「何で動けるかなぁ?ああ、逆に腕の痛みがなくなっちゃったのか……痛った…ッチ、」


シオンちゃんの蹴りが男の急所の側頭葉をしっかり捉えるが蹴った瞬間に倒れ混んでしまう。男の口ぶりから強力な何かしらの薬によって身体の自由が効かないんだ。


「かハッ、」

「足りないならもっとくれてやる」


ああ!注射器がシオンちゃんの首筋に当てられる。クソ!何がヒーローだ。力を貰ってもシオンちゃんには敵わないし、駆け寄って敵を倒すこともできない。


「ダメよ緑谷ちゃん!私たちが出ても殺されてしまうだけ」

「だからって見捨てるっていうのか!?僕は…」

「死柄木弔」


聞きなれない言葉と共に現れたのはモヤ敵。死柄木弔、それが不気味な手を引っ付けた白髪敵の名前なのか。


「13号はどうした」

「行動不能にはしましたが、散らし損ねた生徒がいて…一名に逃げられました」


生徒一人…誰だろう、逃げられるだけのスピードの持ち主はクラスでは飯田くんだが…

死柄木は黒霧という男に怒りを露にする。


「ゲームオーバーだ。あーあ、今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」


オールマイトを殺したいんじゃないのか。これで帰ったら雄英の危険意識が上がるだけだぞ。ゲームオーバー…?なんだ、なに考えてるんだ。アイツら。


「それと…その全知は」

「ああ、薬使った」

「致死薬の筋弛緩剤ですよ!?使うのは最終手段だと言ったでしょう」

「あのままじゃ俺は殺られてたし。打っても暴れたからもう一回した。コイツ薬の耐性絶対あるって。普通に蹴られた、急所を狙って」


「2回も?!早く回収しなければ…」


話からしてこのままではシオンちゃんは連れ去られてしまう。なぜやつらが彼女のことを知っているのかという疑問は今は些細なことだ。彼女に使われているのは、致死薬の筋弛緩剤だって?なんてことをツ。

早く助けないとッ!


「けどその前に、平和の象徴としての矜持を少しでもへし折って帰ろう。全知を拐って…生徒を殺して帰ろっか」


一瞬のうちに目の前に現れた死柄木。アイツの個性はすべてのモノをボロボロにしてしまう。蛙吹さんに延びる手はスローモーションで彼女が崩れるビジョンが見える。敵の手が彼女の顔を覆う。


「ホンっト格好いいぜ、イレイザー・ヘッド」


瀕死の相澤先生による抹消。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!蛙吹さん助けて、相澤先生とシオンちゃんを回収して逃げなきゃ!!


「手ぇ離せぇええ!SMASH!!」


咄嗟に敵に殴りかかる。腕…折れてない…こんな時だけど力の調節ができた。無我夢中で放った拳に痛みはなく、敵に当たった感覚があるだけ。これなら逃げられる。早く敵から逃げて、それからっ!?!!??


「いい動きをするな。スマッシュってオールマイトのフォロワーかい?まぁ、いいや君」


効いてない…僕じゃダメだ。僕はまだ誰も救えないっ。


時は、いつ満ちるのか。




【蹂躙】
踏みにじること。暴力的に侵すこと。




加筆・修正:2020/04/03
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