雨の日の話。
休日、共有スペース。
「今日も雨だ」
「梅雨は顔がテカテカするのよねぇ」
「うちも楽器の調子狂うから嫌だな。湿度調整剤使ってもベストじゃない気がするんだよね」
「それに個性もノイズ入っちゃって視え辛い」
「それわかる。梅雨って厄介だよね」
耳郎さんと窓の外を眺めながらのんびりと勉強をする。期末テストもあるし、インターンで抜けた分をこうして何人かで補うことは多い。勉強を教えることはできないけど、絶賛答え合わせ要因として活躍中である。
息抜きに休憩を挟めば天気の話題。梅雨に入って断続的な雨は、策敵をする私たちからすればあまり良いものではない。耳郎さんも現場では苦戦しながら音を拾っているらしい。
「梅雨…嫌い」
「うちも嫌い」
「あら、なんだか私に言われているみたいで悲しいわ」
「「!!」」
気がゆるゆるに緩みきっていて彼女が近づいてくるのがわからなかった。
「違う違う!梅雨ちゃんのことじゃないから!天気の方ね!梅雨前線!」
「そうそう!それに雨の音って勉強するときのBGMになるから好きよ!」
「そんなに慌てなくてもわかってるわ、ケロ」
首をコテンと傾けて微笑む梅雨ちゃんにからかわれながらちょっとばつが悪くなる。嫌いだと彼女に対して言った訳じゃなかったけどなんだかなぁ…
「中学のときは名字で呼ばれてばかりだったから、名前を呼ばれるのに慣れちゃって初めての体験だわ」
「梅雨ちゃんって呼ばれてなかったんだ、意外」
「ほんの数人だけよ。そう考えたら私はとてもお友達が増えたのね」
「梅雨ちゃん好きっ」
「私も好きよ」
「ケロケロ」
女子3人で抱き合い交遊を深める。今度からは梅雨前線とか五月雨とか麦雨が嫌いだと言おう。間違っても梅雨と言ってはいけない。
すると閃光後ドーンという音と共に響いた地鳴り。どうやら近くに雷が落ちたらしい。雄英は小高い山にあるし、背の高い木や避雷針もあるからそこに落ちたのかもしれない。
「うち…この前のインターンで策敵中に落雷あってさ、耳が飛びそうになった。まだ遠かったから良かったけど」
「音を拾えるのってメリットとデメリットはっきりしてるわよね」
「だから雷嫌い」
「私も雨は好きだけど雷は怖いわ」
「えーっ!梅雨ちゃんにジロー酷くね!!?電気泣いちゃう!」
言葉の最後だけしか聞いていなかったのは、皆さんお分かりの通り上鳴くんだ。なんとA組は天気に関わる名前が二人も。
「上鳴ちゃんじゃなくて、落雷の方の雷よ」
「都合の悪い所だけ聞き取って悲観的にならないの」
「うちはフツーにあんた嫌いだけどね」
「耳郎お前!それ!冗談でも普通に傷つくからな!」
名前で起こる齟齬はこれからも続くのであった。
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心操くんとのお話
文化祭後。
黒いインナーに俺と同じジャージ。手首には見たことのない器具が付けられていて、それが彼女のサポートアイテムだと認識するのに時間はかからなかった。
手首から伸びた透明の糸のようなものを木から木へ伝わせて移動している。よくあんな細糸で身体を支えることができるな…と感心しつつもまた差を見せつけられる。
「先生、なんであの人がいるんですか」
「心操来たか。サポートアイテムの幅を増やしたいんだと。俺の動きをさっき見せた」
ヒーロー科ってのはつくづく才能の集まりなんじゃないかと嫌になる。俺が数ヶ月かけてやっとできるようになった操縛布を使った移動も訳ないって感じだな。
「"しんり"だからできるってわけかよ。羨ましい」
「俺の実演を視て、自分の身体をどう動かせばいいのかわかってるんだろうが…個性が無くともできただろうな」
「ますます嫉妬しますよ」
「……心操、アイツの入試の点数知ってるか?」
「さぁ?実技も筆記も良かったとしか」
「実技は2位とダブルスコアで、筆記はカンニングが疑われて再テストになった。後日俺が見て何回かしたが全部満点だった」
つまり彼女はロボの入試も派手な個性じゃないのにあの爆豪を寄せ付けないくらい点数稼いでいたし、先生が見て個性を消した状態でも入試問題を全て解いてみせた…ということか。
俺の個性を表す部位をあえて言うのであれば声帯だろう。相澤先生は目…環心は第3の目のようなものだと思っていたがそれはどうやら違ったらしい。
彼女の細胞一つ一つが"しんり"であるかのように動いているみたいだ。視れば解る、触れば解る、感じれば解る。
目隠しをしながら移動しているのに的は外さないし身体の使い方だって上手い。空中で体勢を変えてスピードの調節しながら方向転換。
「頭脳派であって運動もできるくせにこれ以上武器増やすなんて…噂通りのパーフェクトですね」
「…アイツは今のままでもヒーローの中で上位に入るだろうが、パワーとスピードは圧倒的に欠けている」
「それでスピードを補いたいって?何のために」
足が遅いわけでも移動しながら戦えるような個性じゃないし、戦闘スタイルを考えればそのままでもいいはず。"しんり"の個性だったら後ろでサポートできるんだからわざわざこれ以上のスピードを身に付ける必要もないだろう。
木を伝い空中を駆ける彼女は何を求める。
「トップを支えるためには必要らしい」
「トップって…」
「あのエンデヴァーも欲しがる人材だしな。期末でオールマイトをタイマンで数秒足留めしてた。アイツのやり方はあながち間違ってないさ」
天才が努力したら最強じゃんとか思いながら、彼女と初めて交わした言葉を思い出す。戦闘向きの個性ではないからこそ他を鍛えた…羨ましがるんだったらその人たちと同じことをしてから言えってことかよ。
180度旋回し糸を木から離すと軽やかに着地した彼女は目隠しを外し素顔を晒した。
「先生のおかげで今までより身体の使い方わかりました。ありがとうございます」
「ブラッシュアップできたならいい。それなら実践でも使えるだろう」
「はい。心操くんは相澤先生に用事だったのかしら?」
「そんな感じ」
マスクや操縛布が鞄の中で良かった。秘密の特訓をしていることは伏せておこう。後日ヒーロー科の鼻を明かしてやるために。
「環心、今日はエリちゃんと勉強する日なんだろ」
「そうなんです。文字を書く練習頑張ってますよ」
「楽しみにしていたから早く行ってやれ」
「はーい。それじゃぁね、心操くん。"頑張れ"」
「おう」
走って寮に向かっていく姿もヒーロー科らしいというか、足取りがとても軽やかに見えた。さっきまでピリッとした殺気を纏った雰囲気が普通の女子のような感じだった。
あれ……そういえばさっき頑張れって言われた。相澤先生に用事があるとは言ったけど、特訓するとかは言わなかったしバレてないはずなのに。
もしかして個性を知らぬ間に使われて視られたとか…?ありえるけれどそんなことして何になる。無駄だろ。どっちにしろ俺がこういう風に特訓してるのバレてるってことじゃん。サプライズが台無しだ。
「ホント……何なのあの人」
能面ではなくなったけど、読めない表情は正直…怖い。操縛布で木にぶら下がりながら去っていた先を見つめた。
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でんぴっぴとしんそーくんの誕生日用に書こうと思ったけどよくわかんなくなったやつ。
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