糖を

中3、2月14日。


「うひゃー、シオン大量だねぇ」

「靴箱には……15個くらい?ここに入らなかった分が机に倍以上の予測」

「17個ある。お手紙までご丁寧に…何故……私?」


バレンタインというものが苦手だ。元より甘いものが得意じゃないし、こういうのを貰ってキャーキャー言う性格でもない。

好意は嬉しいが数がね…

私の靴箱の中には大小様々な箱や小袋が入れられていてそれを取り出さない限り私の靴は取り出せないし入れられもしない状況だ。

友人から渡された紙袋。なぜ持っていたかは知らないがありがたく受け取りそれに入れていく。

教室につくと案の定机の上にも積み重ねられた箱や小袋。その数に苦笑しながら数えれば40はありそうだと小さくため息をつく。

袋に入りきらないしお返しどうしよ…と考えながら1つ転がっていた"きっと勝つ"と願掛けされているあのチョコを食べた。甘い。


「全部で何個?」

「59」

「やばぁー。やっぱ体育祭とか球技大会でファンができてんじゃん。今年もむっちゃかっこよかったし」

「あとは受験生だから応援もあると思う。こんなこともあろうかと紙袋もう一個準備してるよ」


普通に生活していただけなのに何故?クラスの男子からの視線が痛い。何でお前はそんなに貰っているのに俺には無いんだよ、的な訴えをされても困るんだけどな。

添えられた手紙には友人たちが予想していたように体育祭や球技大会の活躍でファンになったとか、雄英の受験頑張って下さいとかいう文言があった。

これをくれた子たちの名前を記憶して追加で貰った紙袋に納める。受験と卒業に被らない来週までにお返しをしなくちゃな。

これでも私は忙しいんだぞ



 *



「うっわ、トーテムポールかよ」

「勝己…お前相変わらずだな」

「うぜぇ」


机の上には積まれた箱。この光景は去年も見た。中身はバレンタインのクソ甘い塊だ。何処の誰とも知らねェ奴から押し付けられたものなんて食べる気は更々ないためモブに持っていくように言う。


「惨めになるからいらねー」

「ンだと」

「俺甘いのダメなんだよね。現金ならありがたくいただくんだけど」

「クソかよ」


指と刈り上げは机の上にある箱にはさほど興味がないようでスルーしていく。なんなんだよ…捨てるにもめんどくせェ。

そんなことを重いながら自分のロッカーに閉まったのはせめてもの優しさだ。



 *



 *



帰り。靴箱を見て本日3度目の光景に、本当に二度ある事は三度あったなぁと遠い目をせざるを得なかった。

帰宅する他の生徒は靴箱の前で固まった私を変な目で見ている。私だってここに立ち止まっていたくない。しかし、またもパンパンに入れられたバレンタインの菓子たちは私宛のものだ。

結局、休み時間の度に女子生徒からバレンタインの菓子類を貰い合計で70は越えている状態。紙袋もあと少しだけ入る余裕はあるが重くて仕方ない。

塵も積もればなんとやら。両手に紙袋持って帰宅する女子って普通じゃないって。

本日何度目かのため息をつきながらそれらを手にする。私が男だったらもっと貰ってたかもしれないな…イヤ、逆に少なかった?クラスの男子は良くて2,3個とかだったはずだからね。

男女間で渡すのは、それは告白と同義。あー女子同士の方が渡しやすいからこんなにたくさん…そうかそうか。わかった、うん。皆ありがとう。


「クソきめぇ数だな」

「その言葉そっくりそのまま返すわ」

「っは、こんなん捨てるに決まってンだろ」

「最低ね」


投げやりな思考を現実に戻したのは私に対する暴言だった。その源を手繰れば、同じく靴箱に入りきっていない菓子たちの前で立ち止まった彼。

ああ、そこ爆豪くんだったっけ。

黙っていれば整った顔をしている。模試で雄英がA判定だった彼は将来有望。今のうちに繋がりを作っておきたいという女子生徒の考えは理解できなくはないが、彼女たちはこの人の性格を知った上でこんなことしているんだろうか。

いや、貰ったものを捨てる奴だなんて知っていたらまず贈らないだろう。彼女たちは彼に夢を見すぎている。

送る相手はちゃんと考えないと。私が今年送るのは父といず、それにオールマイトかしら。父といずには毎年送っている。既製品だけどね。

オールマイトはいずへの感謝の気持ちを込めて身体に良いと評判のお茶を贈るつもりだ。この後帰って海岸に向かえば二人ともいるかな。


「クソスクエア。これやる」

「…自分が貰ったの持って帰るのがめんどくさいからって私に押し付けないで」

「ッチ」

「本命貰って嬉しいんじゃないの?」

「モブから貰ってもサブイボなだけだわ」

「あっそ」


下手に押し付けられる前に帰ってしまおう。私はバレンタイン筋トレスタイルで帰宅するが爆豪くんはスクールバックのみ。この人本当に捨てたのね。

私の前を歩く彼に軽蔑の眼差しは届いているようでクルっと振り返り睨みつけられた。そのままさっさと帰れば良いのに。帰り道が7割方同じなのは仕方がないが私に構う必要ないでしょ?


「何よ」

「……ンでもねぇよ!!」


睨み付けて何もないは無いと思うんだけど。それに口元に力が入りすぎてヒクヒクしていた…ってことは何か言いたかったんだろう。

表情を視た感じは苛立ちと疑問…を含んでいた。

歩調の違いで見えなくなったからももう一度確認することは叶わなかったが、視間違いでなければもうひとつの感情も含んでいたのよね。


期待。


もしかして…、


「私からのを期待して……んな訳ないか」


彼が私からのを期待しているなんてあり得ない話だろう。モブからのは捨てちゃうし、嫌ってる私からのなんて目の前で爆破されるかもね。そもそも彼甘いもの好きじゃなかったはずだ。

小学校に上がる前はチョコレートあげてた記憶はある。いくら昔馴染みでも無条件にあげるとは限らないんだから。

変な気分になって帰る。

冷たい空気を全身に感じて向かう先はまずは家。その後に海岸。

変な気分を晴らすために走り抜ける。



 *



 *



高2、2月14日。


「勝くん、チョコ作ったんだけどいる?」

「クソ甘ぇのは要らん」

「そう言うと思ってカカオ65%のナッツにしたの」

「食う」


甘すぎず、苦すぎず、風味豊かなナッツが決め手のチョコレート。一応バレンタインのチョコってことなんだけどこの人わかってるのかな?

女子が集まって砂糖くんに指南してもらって作ったチョコのお菓子たち。ガトーショコラに生チョコ、チョコロリポップと色んな種類を作った。

そんな中私が作ったのはこの甘くないチョコ。私も甘いのは匂いだけでお腹一杯になっちゃうから、ビターチョコにクラッシュナッツを組み合わせたら良いんじゃないかと思ったの。

勝くんは1つ口に放り込むとボリボリとナッツを噛み砕いている。ちなみにナッツにキャラメルコーティングしてあるから良い歯応えなはず。


「菓子も作れたんだな」

「?作れるわよ、それくらい」

「お前いつも市販だったろ…モブとかクソデクに」

「は…?」


いつも、なんて言葉は常日頃観察していなければ出てこない言葉だ。それに比較対象は私の勘違いじゃなければ過去にバレンタインをあげていた人たち。


「お気に召すお味ですか?」

「まぁまぁだな」

「じゃあ…、私の手作り嬉しい?」

「まぁな」


高価なものじゃないし味だって一流ショコラティエには敵わない。けれど彼がこうやって嬉しそうにするんだったら作り甲斐があるってものだ。


「お返し楽しみにしてる」

「舐めんなよシオン」


口角が上がってチョコを舐めとるような仕草がとてもセクシーだった。



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ん?遅刻?そんなの知らん知らん。
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