遅咲というもの

運動場γ、第一試合。

A組 蛙吹・口田・上鳴・切島・心操

B組 円場・鱗・宍田・塩崎


『じゃ、第一試合…START!』


ブラキン先生の合図によって始まった第一試合。団体戦で言えば先鋒。勝って流れをこちらに引き寄せたいものだが…キーマンは間違いなく心操くん。

空気凝固の円場くん。鱗を飛ばして近中距離対応可能な鱗くん。ビーストのフィジカル宍田くん。ツルの塩崎さん。


「相手は上鳴くんをどうにかしたいやろうね」

「うん。触ればアウトだから…塩崎さんで来るかな」

「特攻で上鳴狙うんだったら1発KOじゃなきゃねー」

「麗日がツル触ったら勝てるくね?はい、勝ちー」

「宍田くんVSいずなのは間違いないから…後は、」


チームになった皆で自分たちだったらどう立ち回るかのシミュレーションをする。これも立派な勉強だ。

B組は捕獲に特化した塩崎さんと円場くんがいるから動きを止められたら一気に不利になる。

先に動いたのはB組。宍田くんが奇襲を仕掛け梅雨ちゃんと切島くんを吹っ飛ばす。懐に入られたくない二人を遠ざけたのか。初動はB組の勝ちだ。

宍田くんに掴まっていた円場くんは策敵していた口田くんを閉じ込める。音も届かないからこれじゃ動物たちを操れない。

後は問題児の上鳴くんを戦闘不能にすれば…


『よっしゃ!!蹴散らせ宍田ー!!』

『任されましたぞォオ!!』

『お疲れ様でしたぁあああ!!!』


上鳴くんの情けない姿がモニターに映し出される。強個性なんだから自信持って立ち回ってよ…誰もがB組の力押しが勝ったと思っていたのに、その戦況を変えたのはダークホース。


「動きが止まった?」

「洗脳だ…あのマスク、円場くんの声で喋った!」

『"もう1つの声帯"…ペルソナコード』


土壇場でよく使ったな…マスクにあるダイヤルをキチキチと調節して他人の声帯を作り出し、言葉に反応させるように仕向ける。

ファインプレーを見せたのも束の間、捕縛布を触る動作が鈍く、それ以上何もさせないようにとエアプリズンに閉じ込められてしまう。

洗脳の解除方法は割れているため再び暴れだした宍田くんは、洗脳の可能性を廃すべく仲間の声には頷きで応答している。

上鳴くんを吹っ飛ばしながら受けた電気に耐えられる肉体。更には、エアプリズンから出た口田くんと吹っ飛ばされていた切島くんを翻弄する動き。

梅雨ちゃんの機転で円場くんを檻に入れることができたが残りは…


「切島くんが飛ばされた方向って塩崎さんの方ちゃう?あ、やっぱり捕まっとるやん!」

「口田も運ばれちまって1ー2かよ」

『早くも削り合い!我が教え子の猛撃が遂に!A組を打ち砕くのかー!?』

「偏向実況やめろー!」


ブラキン先生のB組を贔屓した実況にA組は不服を申し立てている……でも今のところB組の作戦に振り回されているのは事実。


「宍田くん鼻良いね。梅雨ちゃんの動きまで把握してた」

「心操くんの捕縛布のアクションは見てから動ける。実践できるレベルじゃなかったのかな……?」

「もうちょっと良いところみたいよねー?」

「…シオンちゃんちょっと楽しそう」

「まぁね」


だって後ろの相澤先生が首をかしげているのが視えるんだもの。この反応は期待してるってことだなぁ。

両チーム立て直しに入り次の作戦のすり合わせをしている。今度はA組が仕掛ける番だ。


『蛙吹氏が3人向かってきている!?』

「宍田何言ってんだ?エクトプラズム先生じゃあるまいし、蛙吹は一人だぞ?」

「緑谷……"アレ"だよな!?」

「うん…アレだ!」

「?…あれって?」


いずたちが言っていた"アレ"の正体は梅雨ちゃんの粘液。ピリッとする程度のものらしいが、それを上鳴くんと心操くんに塗布して匂いを上書きした。そんな技持っていたのね。

鼻が良いのを逆手にとった。流石は長女というか何というか…周りをよく見て望まれる動きができている。

今現在上鳴くんのポインターの存在に気付き相手陣地に乗り込む作戦も、彼女が見ていたからできたこと。それで思うのは上鳴くんの危機感の少なさ…歯痒いッ。


『一人捕獲!』

『誰が来るかわかんねェぞ!上鳴だったらッ』

『ハイ正解ハズレくじー!!!』


"わざと"捕まった上鳴くんの狙いはツルの大量消費とポインターへの攻撃。しかし肝心のポインターが鱗くんに壊されてしまい狙い撃ちしていた電気が飛散する。詰めは甘いが注意をそらすことが出来ただけで彼の仕事は大成功だ。


『塩崎!次だ!ツル張り直せ!』

『ええ、宍田さん。今……』

『!!?今のは俺の声じゃねぇよ!』

「…彼、人間観察が趣味だったのかしら?」

「呼応も誘い込みのタイミングバッチリ!」

「塩崎さん回収したぁ!やっぱ梅雨ちゃんのサポート凄いなぁ」


流れがA組に来ている。先程とは打って変わって場を掻き乱しているのは心操くん。彼を警戒してB組はコミュニケーションが取れない。

先生たちがインカム無しの対決にさせたのはこのためか……彼の脅威を実感させるため。そして運動場γ、工業地帯を模したこの演習場も彼の捕縛布…いや、操縛布を生かせる地形だから。


『避けろ!黙示録!!』

『アガッ!?!』

「今何があったんだ?」

「梅雨ちゃんと戦っていた鱗くんが投げ飛ばされて避けろと言ったけど、宍田くんは目の前の心操くんの洗脳だと思って無視したらごっつんこ」

「痛そうだ……」

「やべーだろ心操。ハンデになってねーだろ」

「上鳴くんと蛙吹さんの機転で活きたね」


実戦経験が無いからハンデ・お荷物として扱われているけれど、地形やインカム不使用のアドバンテージを理解して立ち回っている。


「というか…黙示録って呼び名、彼を災害の元凶とでも言ってるのかな。あながち間違ってないけど」

「さ、さぁ……?」


『試合終了!第一セット4ー2でA組+心操チームの勝利!!』

「「「やったー!!!」」」


危ない部分はあったけど初戦を制することができた。試合後に観戦ブースでそれぞれの反省を述べて、相澤先生からも的確なアドバイスを貰っている。

B組の敗因は作戦が曖昧だったこと。敵を欺くにはまず味方から…ねぇ………、それが今回はダメだった。なんとも難しい。


「教わったことの一割も実践できなかった…悔しいです」


心操くんは首もとの操縛布を弄りながら悔しさを滲み出させる。彼も相対評価ではなく、絶対評価のもと自分を律している。


「あの活躍で悔しいだってさ…次はもっと気合い入れてくるだろうね」

「条件が整ってしまえば居るだけで脅威……こっちも対策練らなきゃ。よし!今出来ることやアイディアを練っていこう!」

「コンビ技作ろー!!」


ヒーロー科として負けてはいられない。彼はハンデと考えちゃいけないだろう。試合前の挨拶で何十歩も遅れていると言っていたが"足元ゴッソリ掬われる"可能性だってありそうだ。

第一試合に触発されて、各チームが確実に勝ちに行く作戦を話し合う。


「はぁっ…良い!あー…、青い春ッ、これよ、これぇッ…若人の青い春」

「今冬ですけど」


途中から観戦に来たミッドナイトは脳内お花畑。




【遅咲】花が時期に遅れて咲くこと。遅れ咲き。










長くなった。
皆活躍してるしB組も好きだから短くはムリでした。
- 112 -
[*前] | [次#]

小説分岐

TOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -