11月末、女子更衣室。
「やっと冬コスだぁ」
「私は一足早く冬仕様だったわ。寒いと眠くなっちゃうから」
「前の演習で私のマントに入ってきたもんね」
「だって環心ちゃん温かいんだもの」
今日から全員のヒーローコスチュームが冬仕様になる。ヒーローとして円滑な活動を行うために、コスチュームによって常にベストの状態にするのは大事なこと。
とはいっても、私の場合寒暖差によって身体能力に差はでない。寒いのは好きじゃないけどね。
着替えて運動場γに集合する。工業地帯を模した演習場で、実際の現場では火災による救助でヒーローが出動する機会の多い場所。
「私冬仕様〜カッコイーでしょーが!」
「もふもふしてる」
「入学時と比べて皆様変わりしているな」
そう言う飯田くんは冬仕様も糞もない全く同じ全身甲冑スタイル。確かによくこれで夏を耐えたものだ。
私も長袖にジャケットとマントで暑い部類だけど彼の比じゃないはず。早く走ったら回るファンとかで空気の入れ替えしてたのかな。
「あ、勝くんは暖かそうなのになったね」
「本当だ!かっちゃんも変えてる」
「あー!?文句あんなら面と向かって言えやクソナードが!」
「口、悪」
「お前はだぁーってろ!!」
うっわ、クソヤンキーじゃん…あの人が私の彼氏なのか…敵顔すぎるのはなぁ。勝くんのコスチュームに関して興味津々のいずはひたすらに性能を褒めちぎる。
デザインはシンプルだけど、寒いのが苦手とわかる首もとまであるコスは似合ってる。こう……寒さをしのぐハリネズミみたいで可愛くない?
いずも初期からしたらかなりの変更点がある。ベースは引子さんに貰ったジャンプスーツだけどグローブやソールが見る度に新しくなっているんじゃないかと思う。
「シオンちゃんもグローブ変えたの?」
「うん。テグスで体を支えられるように訓練したからね。攻撃と移動で使っても痛くならないの」
「機動力つけたんだ!」
機動力のない個性だから自力でどうにかするしかない。相澤先生みたいに。以前から使っていたテグスの耐久値を上げてイメージはス○イダーマンみたいなアイテムも着けてもらった。
体感が必要だったけど最近になってようやく形になったところだ。それの披露の場がこの演習になったわけだけど…
「おいおい、まーずいぶんと弛んだ空気じゃないか……さァA組!!今日こそシロクロつけようか!」
さぁてやって参りました、本日も煽り全開の物間選手。B組も冬コスで登場だー、クラスメイトにも引かれているけど大丈夫かー?
そう、今日は初めてのAB合同戦闘訓練。両クラス気合い十分だ。ちなみに物間くんは相澤先生の捕縛布で大人しくさせられました。
「今回、特別参加者がいます」
「しょうもない姿はあまり見せないでくれ……」
「ヒーロ科編入を希望している普通科C組心操人使くんだ」
「「「「「あ〜〜!!!心操ー!!」」」」」
先生たちの後ろから出てきたのは心操くん。なるほど、先日の”また今度”はこの事だったのか。相澤先生と類似している首もとの布と、オリジナルのマスク。
両方とも口元を隠すためのものではなく彼の武器だ。それがこの”ヒーロー科”でどれだけ通用するか…お手並み拝見といこうじゃないか。
「立派なヒーローになって俺の”個性”を人の為に使いたい。この場の皆が超えるべき壁です。馴れ合うつもりはありません」
「ギラついてる」
「初期ろきくんを見ているようだぜ」
「そうか?」
「うん」
心操くんの一言挨拶はネガティブだけど意志の強さを感じるものだ。体育祭で戦ったいずには人一倍ガンを飛ばしている。
その視線は私にも来た。身体は大きくなり、指紋は布の特訓のせいか摩れて消えている部分があるみたい。
けれど努力した全員が報われるとは限らない。それは現在ヒーロー科にいる私たちにも言えること。私たちも気を引き締めていかないとね。
合同戦闘訓練は4対4のチーム戦。メンバーは今からクジでランダムに決める。心操くんはA組B組1試合ずつ戦うらしく42人では綺麗に分かれない。なので4対5と5対5になる試合がある。
「環心、お前は心操がB組に入るときの相手チームに入れ」
「それって相性が悪いからですか?」
「まぁな。それにアイツはお前に塩を投げつけたいらしい」
「何ですか、それ」
相変わらず愛のムチが強い先生だ。心操くんをアヘッドモードで視ていれば洗脳されることはまずない。司令塔としても他の人より動きやすいだろう。
心操くんとチームアップする機会は失ったが、代わりに彼と戦える権利を得た。
今回の状況設定は”敵グループ”を包囲し確保に動くヒーロー。全ての試合において4人を確保、投獄した方が勝ち。制限時間20分で終了時までに終わらない場合は残りの人数で決する。
それは5体5でも変わらないルール。ハンデとして扱われる心操くんは事実だからと大人な対応を見せる。勝くんも徳の高さ見習わないとね。
そしてくじ引きによりチームが決まる。
第一試合
蛙吹・口田・上鳴・切島・心操VS円場・鱗・宍田・塩崎
第二試合
青山・八百万・葉隠・常闇VS黒色・吹出・拳藤・小森
第三試合
飯田・障子・轟・尾白VS鉄哲・回原・骨抜・角取
第四試合
爆豪・耳郎・瀬呂・砂糖VS凡戸・泡瀬・取蔭・鎌切
第五試合
緑谷・麗日・環心・芦戸・峰田VS柳・庄田・小大・物間・心操
「よろしくー」
「よろしくー。デクくんは再戦やね」
「うん、力をつけた心操くん。どう来るのか楽しみだ」
修羅場を経験し本番に強いA組。
堅実な力の底上げと統率のB組。
合同戦闘訓練開始。
【虎視】
虎が獲物を狙うときのように、鋭い目つきで見まわすこと。転じて、じっと機会をうかがうこと。
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