文化祭、練習開始1週間。
「緑谷……クビです」
「フぁ"ーーー!!!?」
「クビっていうか正確には演出からの引き抜き」
「あーやっぱりいずになったんだ」
「シオンちゃん!??やっぱりって何!?やっぱりって!僕エリちゃんにステージ出るって言っちゃったよ!」
練習を開始して、演出が固まってきた頃の異動命令。青山くんをミラーボールにして会場を湧かせる案が出たんだけど、それだけじゃすぐに飽きちゃうから……
そうだ!パワーのある緑谷に動かしてもらおう!二人仲良いしね!ってことで命が下った。
知ってた…というか提案推進したし……?
出番が減っただけで嘘はついてないから、ということでいずの途中離脱が決定。
文化祭本番までの放課後はもっぱら、準備や練習にあてられる。放課後に行っていた必殺技開発も、朝のロードワークさえ長時間行うことはない。
「上鳴くん走ってる!ドラムとベース聞いて!」
「うぇっ」
「ドラム!!下手くそなアレンジしないの!!」
「あ"あ"誰が下手くそだゴラ!!」
「いずと峰田くん半拍遅い!手の上げ足りない!」
「「うっす」」
「無視すんな!!」
「照明!指示出すときもっと具体的にして!」
「おい!クソシオン!!」
「黙れ!!爆発さん太郎!!」
「あ"あ"ん?!!?」
多少口が悪くなるのも多めにみてね。
*
同日夜、ハイツアライアンス。
初めて通して練習をした。大まかな流れと演出のタイミング確認を行ったけどまだまとまらないなぁ。
「演出でさ、観客参加型にするじゃん?氷の道形成が肝だからもっと詰めたいな」
「俺もそれ確認したかった!骨組み増やした方が氷の厚さ出せるよな?」
「まぁ、そうだけど。麗日の個性である程度はもつだろ」
「途中で落ちたら大惨事だから……氷の強度計算しとこうか」
完成には程遠いが今日得られたことは多い。通してすることでみんなの意識の再確認もできた。
「てめェ走ってんだよ!俺に続けや!」
「お前が勝手にアレンジすっから混乱すンだよ!」
「あんな変なアレンジ入れられたら私もワケわかんなくなるかなぁ。走るのは緊張してるのもあるからリラックスだね」
「外野は口出しすんな!!」
「総合演出なので口出ししますぅ〜」
勝くんの意見は基本中身が見え辛くうるさいだけなんだけど、それは彼が中途半端なんて納得しないから。だから上鳴くんが初心者だからって甘く見ることはない。
でも1週間でこれだけ成長した上鳴くんはすごいと思う。常闇くんも躓いてギターを諦めた原因のFコードを突破している。
それは彼らの努力だけではなく耳郎さんの指導も大きな割合を占めていると思う。
「今日のお茶いい香り…!」
「わかりますの?お母様から仕送りで戴いた幻の紅茶ゴールドティップスインペリアルですわ!」
「へぇ…初めて聞いたけどこれゴールデンチップ使ってるの?」
「さすがですわ環心さん!」
練習を終えて疲れた体を気遣い八百万さんは度々、紅茶を振る舞ってくれる。紅茶は副交感神経に働きかけるから良い。
今日のはいつもと違ってスペシャルな茶葉らしいけど、にわかの知識しかないので解らない。視た感じは……ちょっとゴールドっぽいかも?
「んー、少し甘くてまろやか」
「ええ…皆さんお疲れでしょうが頑張りましょうね!明日もご指導よろしくお願い致します」
「だってさ。耳郎さん」
「え、ウチ!?」
そうですよ、ロッキンガール。
*
*
文化祭前日リハーサル。
「キレがないよ!目線あげて!ポーズが甘い!」
「緑谷!動きまだヌルいから!グッ!グッ!!」
本番のステージを明日に控えて最終リハーサルが行われるが、緊張して動きが固いのかな…疲労もあるから仕方ないけど集中力もうちょっとだけ頑張って!
「始める前は素人芸が…って不安だったけど…素人以上のモンになっちまったよなァ。芦戸も環心も以外と鬼コーチ」
「二人とも好きだから…本気だからできんだよ」
「演出二人!駄弁らずシミュレーション!」
「「うぃっす!!!」」
体育館が借りられる21時ギリギリまで行われたリハーサルでアドレナリンがドバドバ出ている。
寮に帰ってきても興奮冷めやらぬ様子の数人は寝られないらしい。私も多少は興奮しているみたいだけど、明日の監視の任を考えると早く寝なきゃ。
「私先に寝るね。明日に差し支えないように睡眠とるんだよー」
「了解監督!」
「お疲れ様っした監督!」
「…………おやすみ」
「「「おやすみー!!」」」
だいぶキテるんじゃないかな?大丈夫か?いや、視た感じ皆のメンタルは大丈夫だったけどさ。
何よ監督って…?
おやすみの挨拶を済ませエレベータではなく階段で自室のある2階へと上がる。夜半の秋は空気が冷えるな。半袖だけだと肌寒くなってきた。
……明日、成功するよね?
三日月の空白部分が少しだけセンチメンタルにさせる。
雄英全員楽しんでくれるかな。エリちゃんは笑顔になってくれるかな。そもそも……無事に開催が…
「できる…かな……?」
「できるかじゃなくてすンだよ」
ちょっと何でここに居るのさ。最近女子寮、延いては私の部屋に来すぎじゃない?扉の前で陣取るの止めてほしい。部屋の主である私が入れないんだけど。
「不安なンか」
1ヶ月。不安要素がなくなるように取り組んできた。皆を信じてるから不安なことはない。ただ…
「緊張してる」
「っハ、演出ごときが」
「ちょっとその言い方酷くない?こっちは重要案件請け負ってるんだから」
いくら裏方とはいえ緊張するものはするさ。それが顔や態度に出ないだけで。勝くんみたいに心臓が剛毛で覆われているわけではない。
「頼るのは俺だけで良いが、アイツら信じてやってもいいンじゃねェーの」
頼ると信じるは同義語だって。信じて頼るで信頼なんだから。
頭に乗った甘い香り。なんか今日はイケメンな態度とるなぁ。一応は励ましてくれてるんだ。
「…明日、アトラクション勝負すっぞ」
彼の去り際の台詞は、物騒ながらも彼らしくて…そのおかげでいつも通りの私が戻ってきたと思う。
明日が本番。
*
*
てか、勝負のこと言うためにいたの?RAINでいいじゃん?何なんだ、彼は。
あ、待てよ。
私監視役するからアトラクションに参加できなんじゃ………?
…………………………ま、いっか。おやすみなさい。
【奨励】
高く評価して、それを行うように勧めること。
2020/3/21:加筆・修正
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