準備というもの

週末、ハイツアライアンス。

「環心朝早いな。私服?」

「ごめん!私今日打ち合わせ参加できないわ」

「あー前言ってたエリちゃんところに行くのか」

「うん、行ってくるね」

「「いってらー」」


休日だが文化祭の打ち合わせで皆起き始めていた。まだ7時なのに打ち合わせを始める演出隊に一言入れて、待ち合わせ場所へと向かった。


「お待たせしました」

「あとはアイツか」

「あれー?10分前なのに早いなぁ!おはよーっざいまーすっ!」


朝からテンション高。それに比べて通常運転の私と相澤先生。

個性消失により休学中のミリオ先輩だけど…ひたすらに明るい。個性がなくとも彼は彼だからね。

先生に連れられて本日の目的であるエリちゃんの元へ。


「エっリちゃん!おぉ!かわいいお洋服だよね!」

「ふふっ、おでかけの準備はおっけー?」

「…緊張、してる」

「大丈夫だよ!皆優しいから」


彼女にとって外の世界は久しいものだろう。ずっとあの場所に幽閉されていたのだから。

怖くて、身体が強張ってしまうのも仕方がないことだ。出掛ける準備はできているものの、気持ちの面ではもうちょっと準備万端にさせてあげなきゃ。


「エリちゃん」

「?」

「ギュってしようか?」

「!」


斜め掛けバッグの紐を握っていた手が私の服を掴む。強がってはいるけれど甘えたかったんだなぁ。可愛いなぁもう。


「俺も!!!」

「先輩はダメですってば」

「お前…子ども得意だったんだな」

「だって………可愛いんだもん」


本当はこのまま抱っこして運んであげたいけど…平均より軽いとはいえ19kgもあるのか。私にはちょっと重い。


「抱っこは俺の役割だからね!!」

「わっ」

「よろしくお願いします、先輩」

「うん!行こう!!」



 *



同日午後、雄英高校。

「ようこそ!!雄英高校へ!」


私と手を繋いだまま校舎を物珍しそうに見ている。エリちゃんに外出、及び文化祭観覧許可が出たから慣らしのためのお出掛けだ。


「まだ、誰も気づいてないようだ…どうれ」

「あっ!通形先輩!」

「「「!エリちゃん」」」

「サプラ〜イズ」


1-Aの寮の前ではダンス隊が自主練習に励んでいた。そこへ現れた私たちに、特にインターンに参加していた3人は大きく反応する。

それに便乗して声をかけてくれる皆だけどエリちゃんは人が多くて緊張している。脚に張り付いてしまった。頼られてる感じ…可愛いなぁ。


「照れ屋さんなんだよ」

「慣らしのために今日来たんだけどね、いずも一緒に学校回らない?」

「!!行くよ!!」

「じゃあ制服に着替えてくるから相澤先生と待っててね」

「…………早く戻ってきて、ほしい…ハーツさん」

「ふふっ、うん」


私とミリオ先輩にはだいぶ心を開いてくれたみたい…あとは年相応に感情をもっと露にしてくれたら100点満点なんだけどな。


「あ!環心戻ったのか!演出のことで相談なんだけどよ…えッ!エリちゃん!?」


ドタドタと相談に来たのかと思うと外のエリちゃんへ向けて走っていってしまった切島くん。

うん、元気がってよろしい。


「で、相談ってなんだったのよ…」

「あーそれな。人手が足りなくてな…パワー系が欲しいって話してたんだよ」

「個人的には緑谷が適任だと思うんだが」

「あー…そこは芦戸さんに相談だね。青山くんとセットって考えた方がいいかも」

「あ、青山ね。オッケー芦戸に聞いてみるわ」


制服にパパッと着替えてエリちゃんの所に行こう。ちょっと視てみたけど練習は苦戦しているみたい。ダンスもバンドも。

まだ、ダンスの方が進みは早いかな。ヒーロー科で運動しているだけあってコツを掴んでしまえば個人の上達は速い。問題はその先の連携だよなぁ。

バンドも団体戦だから上鳴くんと常闇くんの底上げをどれだけできるか。


「だから基本ができてないのにカッコつけようとすな!!」

「えー!だって耳郎はこうやって…こうして?」

「音が潰れて汚い!引っ掛けすぎ!コード甘い!」

「オメーら殺る気あんのか!!?あ”??」


バンド隊絶賛難航中。気持ちだけが先行して技術とチームワークがちぐはぐしている。


「あぁ!もう!!下手くそなの自覚して!」

「ウェぇ…」

「皆様、落ち着いてくださいまし。少し休憩しましょう」

「環心〜あたしコイツらまとめらんないよ〜」


もどかしさから先が見えなくなってる。


「バンド隊は…焦らず急げって感じかな。自分達が楽しんでなかったら、相手に楽しませるなんて無理だよ」


初心を忘れずに少しずつ積み重ねればまだ時間はある。技術が気持ちに追い付くのはそんなに遅くないはずだから。


「シオンちゃーん!エリちゃんが呼んでるよー」

「わかったー!すぐ行く!!」


いつの間にか着替え終わってスタンバイしていたいずからお呼びだし。思いの外進捗確認に時間を要してしまったな。

演出のためのヒアリングじゃなくて、メンタルケア係りになってそうな気するけれど…パフォーマーのモチベーションを落とさないのも私の仕事だわ。


「っけ、またガキのお守りかよ」

「……そうね、勝くんをお手本にするわ」

「ふざけやがって…オラ、さっさ行けや。呼ばれてンだろ」

「なんか…かっちゃん優しくね???」

「あんたは他の事より自分の心配しろっ」


文化祭まであと1ヶ月。




【準備】ある事にすぐ取りかかれる状態にすること。




2020/3/21:加筆・修正
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