翌日、仮免講習出発前。
「ンでお前もいんだよ」
「さぁ?」
「相澤先生に連れてけって言われてたろ。爆豪忘れたのか?」
「忘れてねェよ!つか後ろ歩けやッ」
昨晩ちょっと感傷に浸ってから一夜明け、今日はこの問題児たちと行動を共にする。
「おっせーよ!?バッボーイズ!!」
「あれ、相澤先生引率じゃないんだ」
「イレイザーは昨日救出した子の”個性”に関して彼の力がいるからそっち行ってるぜ!!」
エリちゃんの個性の暴走を止められるは、今のところ相澤先生しかいないからなぁ。だから、今日の引率はオールマイトとプレゼント・マイクの二人。
「早く仮免取ってホップステップヒァウィーゴー!」
*
移動中、バス車内。
「髪切ったんだな」
「あ、今その話題?うん、ショートになった」
「……俺か」
「違う、ショートヘアーね?」
私のザンバラな髪の毛を見かねた勝くんが綺麗に切ってくれた。顎ラインまでの長さなんて…いつぶりかしら。
「ショートヘアー…ふわふわしてんの天然か?」
「そうよ」
「へぇ…なぁ、触っていいか?」
「ん?べ、別にいいけど……?」
勝くん曰く、小さい頃は短いと出てくる天然パーマが嫌で伸ばしていたらしい。それすら忘れていたんだけど、彼は覚えていた。
そして、昨日までのストレートと変わって少しフワッとした髪の毛に興味を持っている轟くん。別に減るもんじゃないから触られても問題はないけど…大丈夫?
少し戸惑いがちに伸ばされた彼の右手は頭を撫でるように触ってくる。
「……………」
「…………………いや、無言はやめてよ」
「……気持ちいいな、ふわふわでサラサラしてる」
「あ、ありがとう…?」
「いつまで気色悪いことやっとンだクソがッ!」
火花をパチパチ繰り返して不快感を露にしている勝くん。わぉ、久々にガチで不機嫌じゃん。
「あ、これ切ってくれたの勝くんなんだよ」
「爆豪が?お前何でもできるんだな。今度俺のも頼む」
「誰がお前のなんか切ってやるかよ!!」
「お、そうか」
全力否定で怒りの具合が、パチパチした線香花火のようなものから小爆発へと変わる。
彼の怒りのバローメーターは視なくても今度からこの爆発具合で量ればいいや。
「………触ってンじゃねぇよ、」
「え?何、勝くん」
「ンでもねぇよ!!!!」
そう、ならいいんだけどさ。
勝くんが不機嫌になったのも気になるところではあるが、それよりも危惧すべき事態は轟くんの情緒不安定さ。
私の髪の毛を触ってるときはちょっと穏やかな感じがしたが…さっき引率がオールマイトって知ったときのピリッとした感じ。
彼はオールマイトのようなヒーローになりたかったと言っていたから、嫌いではないはずなんだけどな。
「大丈夫?」
「何がだ」
「轟くんも機嫌悪そうなの顔に出てるよ?」
「……大丈夫だ」
結局、目的地である体育館に着くまで不機嫌な理由は教えてくれなかった。
そういえば、こんな感じの前もあったな。たぶん体育祭の時だ……それはつまりエンデヴァー絡みのことなわけで。
今日一日、平和に講習が終わりますように。
「若いなぁ」
「若いっすねぇー」
おっさんですか…
*
*
総合体育センター。
先生たちに見送られコスチュームに着替えるために更衣室へ向かうが、3人とも根がお喋りって訳じゃないからここでも割りと沈黙。
「おーい!雄英!!あれッ!?今日は環心さんもいるんっすね!」
「えーっと、夜嵐くんだ」
「そうっす!夜嵐っす!」
「ヤバ驚嘆〜イケメンと講習とかマジ恐悦〜」
「ケミィ先輩!!」
文字通り嵐のような夜嵐くんの後ろを、ヒョコヒョコと着いて来ていたのは…”本物”のケミィ先輩。
私がここに呼ばれた理由は大方この事だろう。先日はいなかったらしいが今回から特別に参加するみたい。
「おい何でお前がいるんだ肉!お前1次で落ちたろ」
「観覧の許可をいただいたのだ!」
「やばーエンデヴァーの息子でイケメンとかマジサラブレット〜」
「ケミィ下策であるぞ!!」
「うっせェ!肉!」
「肉倉精児である!!」
何だこのキャラの濃さと騒がしさは…雄英メンバーだけだったらちょうどいいくらいの口数だったのに、なんの化学反応か知らないが騒がしい。
このメンバーでショッピングに行ったとしたら、絶対に他人のフリをするパターンのやつじゃん。と思いながらメンバーをその場に残して私は更衣室に向かった。
一応私もコスチュームに着替えて集合場所であるセンターのホールへと向かう。あ、来いって言われただけで講習に参加しろとは…言われてない、はず…?
「俺!!あんたと必ず親友になってみせる!!」
「毎回言うが無理に親しくしなくてもよくねェか」
「んん!!!」
後方で夜嵐くんの”轟と仲良くなる作戦”が繰り広げられているけれど、空回りしている。強引すぎる正面突破はいずみたいだなぁ。
「虫酸が走る…」
「協調性は大事だよ」
「仲良しごっこなんかすっかよ」
「私とも?」
「……テメェは黙っとれ」
ふーん?私との仲良しごっこは別に良いみたいだけど、基準はわからないなぁ。頭をグシャグシャにする手からは照れが視える。
短い髪の毛がフワフワと揺れた。
うん。この髪型嫌いじゃない。
「焦凍ォオオオ!!!!!」
おっと…親バカヒーローエンデヴァーさん…
集合場所の観覧席には炎を纏ったエンデヴァーさんがいる。講習が始まろうというのにそんなに騒がしくしないでください…
補講受講者たちはその存在にピリつき、逆に隣にいたオールマイトには無条件の安心感を抱いている。2人の支持率の差は否めない。
個人的に神野でエンデヴァーさんにお世話になって、彼の凄さや信念を視ているから…とても尊敬している。親バカと意味不明な部分以外はね。
さて、と…仮免講習の時間だ。指導員ギャングオルカ。威圧感が会場を包み込む…本当は彼優しいんですよ?顔は怖いけど。
「わかったことがある…貴様らはヒーローどころか底生物以下!!ダボハゼの糞だとな!!」
「「「サーイエッサー!!」」」
え?ここ宗教ですか?
勝くんの場合。
「特に貴様だ!ヒーローになる気はあるのか!?」
「まず糞じゃァねェんだよ」
「指導ー!!」
口答えが甚だしい。
轟くんの場合。
「どうしたら糞が人間様を救えるのか!!?」
「…肥料とか間接的に………」
「指導ー!!」
ギャングオルカの言葉の真意を獲ない天然炸裂。
夜嵐くんの場合。
「戦闘力機動力だけで人は人を称えるか!!?」
「サーイエッ」
「指導ー!!」
オープン質問にクローズで返してしまう勢いの良さ。
私の場合。
「貴様はなぜダボハゼの糞に紛れている!!?」
「糞掃除に駆り出されました」
「そうだ行けー!!!」
与えられた役割は至極めんどくさい。
次回ミッション2!!
問題児たちと共に、子どもたちの心を掌握せよ!
私のターン!ドロー!!………!!?
【統御】 全体をまとめ支配すること。
2020/02/01 加筆・修正
- 87 -
[*前] | [次#]
小説分岐
TOP