刷新というもの

死穢八歳會、地下。


[この人達は死んでも諦めない…]
[…私は救からなくちゃいけないんだ]
[あの人に傷付けられる……でも、救けてッ]


[今度こそ、救けるんだ]
[先輩やシオンちゃん、ナイトアイが繋いだんだ]
[もう、絶対に離さない]


サーの死のビジョンはもうすぐそこに迫っている。せっかくエリちゃんが救われる覚悟をしたのに、いずがその小さな心を捕まえたのに。

”しんり”は死を指していない。私たちは勝つんだ。今の”二人”なら治崎に勝ちうる術を持っている。

ドッ!!


「なに今の…衝撃」

「デクです…蹴りで周りを壊した」

「デクくんは!?」

「……地上に、出てる」


いずの個性が強くなっている。エリちゃんを抱き留め、治崎の攻撃を回避しようとしたところで天井へと飛び上がった。

感情が高ぶって個性のコントロールができていなかったというのもあるけど…あれはエリちゃんの個性でリミッターが一時的に外れてるんだ。


「マズい!治崎がッ」

「君たちは、大丈夫だ……」

「!?サー!傷がッ」


血を流しすぎてショック死してもおかしくないような状態のサーが歩みを進める。特に腹部に突き刺さっている地面だったトゲは太い血管を傷つけていた。血圧が下がってる…

この状況で少しでも動かしたら本当に命を落とす。


「私はいい…ハーツ、常にアヘッドで…私が見た未来を視ておけ……、奴は…緑谷とエリちゃんを追って地上へと出る……そして、緑谷を…殺す」

「そんなの…、ッ足、動かへん…」

「未来はッ変えられる!!だってあの時も変えたじゃないですか…!”しんり”の私が言ってるんです、絶対に死なせない……ッ!」


いずが死ぬ?そんなの間違ってる。サー、あなたもきっと生き抜く。縋るように未来を見るんじゃなくて、未来を変えて勝つことに縋ってくださいよ。


「ウラビティ!私を浮かせて!」

「わ、わかったっ」


リューキュウとフロッピーと共に敵を地面に落とし込んだ状態で、いまいち状況を把握できていないものの力を貸してくれる。

彼女の個性を借りて飛び出た先には巨大化して暴れまわる治崎。今度はどの部下と融合したのよ。

いずはエリちゃんを背負い、先輩のマントで包み込んでいる。ワン・フォー・オールの100%は凄まじいエネルギーの塊で視るには眩しすぎる。


「ハーツ…」

「環心さんは…きっとデクくんを救ってくれますッ…未来なんて何かせな変わらん…!」


サーの見た未来はここにはない。


「”個性”で成り立つこの世界を!理を壊すほどの力が…壊理だっ!!!」

「だから………その”真の理”である私が、壊れないって言ってるのよ!!」

「がッ、く……価値もわからんガキどもに利用できる代物じゃない!」

「デク!!」


100%のフルカウルで蹴り上げられた治崎が宙に舞う。以前であればバキバキに骨折する程の力も、エリちゃんの"巻き戻す"個性によっていずが痛みを感じる前に傷を戻してくれる。

理を壊す存在?彼女は優しい。救けられる覚悟を決めて、頑張っていずに力を貸しているんだ。

仕込みのダガーナイフは残り2本しかない。あの時みたいに…、未来を変えるために。

空中で繰り広げられる戦い。飛び上がったいずの速さについていけない治崎は一瞬標的を見失う。その一瞬だけでもいい。見失ったことにより起きる刹那の聳動。それにより奴には、いずを視界に捉えようとする心理が働く。


「俺の邪魔をするな!!」

「お前に"理"なんか壊せない…ッ!!」

「ナイフ…?!…、小娘ェ……!?」

「目の前の…小さな女の子一人救えないでッ……皆を救けるヒーローになれるかよ!!!」


勢いよく宙に投げたナイフは治崎の頬を掠めた。

いずは勝たなきゃって気持ちが強くなると、口が悪くなる。喧嘩の謹慎中に彼が言った初めて自覚した癖みたいなものは、勝くんの影響なのは間違いない。

治崎が自身を分解して回復する間を与えない、ワン・フォー・オール100%の乱打。

私は戦線離脱していたから知らないけど、USJでオールマイトが脳無に打ち込んだ全力の拳。それはきっと、今のいずみたいに空気を裂くようなものだったに違いない。



いけ……


いけ、



「行けェ!!いず!!!」


「あ"ああ"あ"あぁああ!!!!」



変わった、未来が。


なんて、眩しいんだ。


渾身の右ストレートは、サーの予知にはなかったもの。ほら、やっぱり未来はダガーナイフ1本でも変えられる。変えようとする強い想いが、観測不可の分岐した未来へと誘った。

地面に墜ちた治崎からは何も視えない…気絶か、それともダメージが大きすぎて満足には動けないからなのか…


「怪我はない?ごめんね、僕が至らないせいで……ッ!!?、グゥウウウ」

「!?!」

「状況は!?」

「ナイトアイは後ろに…デクくんが急に苦しみだしてっ」

「エリちゃんの個性が…強く、なってそれで…ッ」


初めてこんなにも個性を使ってしまってるんだ。興奮状態でコントロールしろって言うのはムリに決まっている。

私だって16年間生きてきても、コントロールなんて完璧にはできないんだから。


「デクくん!後ろ!」

「避けて!」


意識なんて殆んどないはずなのに治崎は執念で歪な形の腕で二人に振りかざす。

ヤバい、コイツ…!エリちゃんを諦めてない……ダガー1本しか……ッくそ、刺されッ!

治崎本体にダガーナイフが刺さった瞬間に、今まで合体していたモノたちが分離し剥がれ落ちていく。

エリちゃん…?彼女の個性によって合体する前に戻されたんだ。

脅威が沈静したが……彼女の巻き戻す力は増していくばかり。止めなきゃ。これ以上苦しまないように。

一歩、一歩と近づく度にエリちゃんといずの痛みが伝わってくる。抱き締めたらそれはより一層強くなる。


「エリちゃん、頑張ってくれてあり、がとッ…、ち…貴女のお陰で…、皆救われた」

「あ…ヤ、この人死んじゃう……ヤダ止まらない」

「大丈夫だよ……貴女は優しい」


イレイザー・ヘッドの抹消により虚脱したエリちゃんは眠りにつく。


「ハァ……ッァ…目標保護!!!」


辛い気持ちも全部巻き戻って無くなれ。




【刷新】
弊害を除き去って、全く新しいものにすること。



2020/1/12:加筆・修正
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